【クリエイターが語る金沢(2)】金沢と東京との化学反応生む場に――水口克夫氏(アートディレクター)

広告界最大級のイベント「全日本広告連盟大会」が今年5月、北陸新幹線開業に沸く金沢市で開かれ、全国の広告関係者をはじめ1400人が来場しました。広告界の業界団体である公益社団法人全日本広告連盟(全広連)の主催によるもので、今年で63回目を迎えます。
この連載は、全広連と宣伝会議とのコラボレーションの一環で発行した新聞「アドバタイムズ特別号」の記事の一部を転載するものです。新幹線開業で注目される北陸経済や、金沢の広告界・クリエイティブの今を紹介します。

東京で得たスキルで地元に貢献を

水口克夫氏

水口克夫氏

新幹線開業後の5月、故郷の金沢に支社を立ち上げました。場所は金沢21世紀美術館の近く。4階建ての建物です。

2012年に独立した当初から「いつかは金沢に支社をつくろう」と考えていたのですが、これには理由があります。僕が金沢美術工芸大学を卒業して電通に入社したとき、地元の新聞に「金沢美大の学生は市の税金で学んでいるのに、卒業すると地元に残らず東京や大阪へ行ってしまう」といった内容の記事が出たのです。しかも、実例として僕の名前まで書かれていて……。このことがずっと心の中に残っていました。

JR東日本の北陸新幹線開業告知ポスター

JR東日本の北陸新幹線開業告知ポスター

当初は「いつかは見返したい」という思いもありましたが、東京で培ったスキルで地元に少しでも貢献できればと考えています。現在東京のデザイナーが異動して1人常駐しているほか、新規でも採用します。僕は月に2回ほど東京と金沢を行き来していますが、やはり新幹線開業で便利になりましたね。

もちろん、広告やデザインの仕事を金沢でもお受けしていくためのオフィスでもありますが、まずは「場」をつくろうという思いが強いです。地元の学生や若いクリエイターが集まったり、金沢と東京をつないだり。こうしたことで新たな化学反応が生まれることを期待しています。

夜の金沢もぜひ体験して

「ブックス・アンダー・ホッチキス」は金沢21世紀美術館のそばにある

「ブックス・アンダー・ホッチキス」は金沢21世紀美術館のそばにある

そのためのひとつの試みとして、1階と2階に「ブックス・アンダー・ホッチキス」という名の本屋兼ギャラリーをつくりました。特定のアーティストにフォーカスして、2階に作品を展示、1階はその人が選んだ本が買えるようにしています。内容は2カ月ごとに入れ替える予定です。

僕自身、広告デザインや装丁デザインを数多く手掛けてきたので、紙の本に対する思い入れがありますし、本や写真集から表現のヒントを得てきました。そこで、アーティストにとってのアウトプットである作品と、インプットである本を一度に見られるようにしたら面白いと考えたのが発端です。ひと言でいうと、アーティストの頭の中を本によって覗くことができる本屋です。

金沢は昼の観光もいいですが、夜がおもしろいですね。伝統的な和食の店や寿司屋などはもちろん、「金沢おでん」なども知られています。正統派のバーからジャズバー、クラブなど、飲みに行く店も多様です。忘れてはならないのはお茶屋文化。僕も紹介されて知りましたが、金沢の人たちは遊びが上手だと思います。子どものころはあまり好きではなかったのですが、こうしてより奥深い金沢の魅力に触れ、お勧めしたい街になりました。今は東京から新幹線で日帰り出張も可能ですが、ぜひ夜の金沢も体験してほしいですね。(談)

水口克夫(みずぐち・かつお)
ホッチキス代表取締役社長。1964年金沢市生まれ。86年、金沢美術工芸大学卒業後、電通入社。アートディレクターとして多くの広告制作に携わったのち、03年シンガタ設立に参加。12年に独立し、ホッチキス設立。15年5月金沢に支社を開設した。

全日本広告連盟金沢大会
全日本広告連盟金沢大会
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