第6話の見所—犯人が張り巡らした罠に立ち向かう対策室の攻防
第6話では、犯人が仕掛けた多くの罠に対策室メンバーが翻弄されながらも、大鷹取締役から木村室長、そして石森教授から望月貴子という真犯人にたどりつく。犯人は、対策室メンバーが優秀なことを知った上で、彼らの洞察力を利用し、一見分かりづらい痕跡をさりげなく気づかせ、偽の犯人へと誘導していく。人は相手から諭されるより自ら決断・発見したことに従いやすい。対策室メンバーも精緻な調査を進め、たどりついた一筋の光明から得た犯人像に飛びついた。しかし、やっとの思いで犯人を特定したと喜ぶメンバーを横目に、ただひとり西行寺だけは「・・・証拠が揃いすぎている!」と冷静だった。
彼の鋭い嗅覚は、散りばめられた犯人の残した痕跡と犯人の緻密なプロファイリング像の違いに違和感があったに違いない。経験を積んだ危機管理コンサルタントは、パズルでピースを組み込んでいったら最後のピースがでかすぎて入らない、なんてことは絶対ないと信じている。でかすぎて入らないということは、その推論がどこかで間違っていたと考えているからだ。
危機対策で重要な要素のひとつに、「自分が追いつめられていると感じるときは、相手も追いつめられている」と認識することにある。そして、同じ条件下にいる不特定多数の標的がいる場合には、冷静沈着に、ある重要情報を操作又は誘導し、相手の次に行う行動を予想した上で相手を絞り込む諜報活動(エスピオナージ)が対策の成否を分けることがある。特に、調査する側に犯人が含まれている場合は、あらゆる情報が犯人に筒抜けになるため、情報統制と管理が極めて重要となる。
西行寺は、対策室メンバー全員が「犯人を特定した」と考えていたとき、既に真犯人を予想し、メンバーにも隠して大きな罠を仕掛けていた。一方、真犯人は自分が仕掛けた罠に対策室メンバーが誘導されたことを知り、自身の仕掛けた罠の巧妙さに酔いしれていた。結局、真犯人は西行寺のしかけたカウンタートラップという罠にはまり、あぶり出されてしまう。
第6話の見所-再び残念な経営者の発言が目立つ!
新陽薬品の進藤社長が、「私は開発に二百億も注ぎ込んだ上に特許を奪われた被害者だよ?」と発言する場面がある。会社の基幹プロジェクトの失敗に対して自身が被害者であると言ってはばからない社長の考え方こそが危機的事態であり、『リスクの神様』にも度々このような経営者が登場する。
進藤社長は、会社の経営者であることを忘れ、保身のことだけにしか関心がない。対策室のメンバーにも早期の犯人探しを命じ、確実な証拠が得られていないにもかかわらず、大鷹取締役が疑わしいという西行寺の報告を受けた直後に大鷹取締役を解任し、記者会見を行うという暴挙に出る。
記者会見での発表で最も重要なことは事実の検証結果に基づくことにある。進藤社長は自らに対する責任追及をかわすために、西行寺の報告に飛びつき、事実関係があいまいなまま発表するという大きなミスを犯した。
ドラマでは、大鷹取締役を産業スパイという犯罪行為者として名指しし、その情報がライバル会社に流れたと発表したことで事件はマスコミの知るところとなるが、その証拠はなにひとつない。このような状況下で社長による記者会見という暴挙を予想することは、いかなる優秀な危機管理コンサルタントにおいても難しいだろう。