テレビの新しいつくり方——ゼロ次利用とは?
中村:広告にも通じる点がありますよね。クライアントがあまりわかってくれなかったら、そこまでのものになっちゃうということがある。澤本さんや権八さんはすごい人だから、クライアントも知っていて、この人の企画だからと言って採用されることもあると思いますが、若い頃は大変だったんじゃないですか?
澤本:だいたい信用されてないからね(笑)。とにかくつくらないと誰も信用してくれないから、僕らの場合は一生懸命つくろうとしましたね。だから企画が面白いけれど、1本もつくれない人って“天才企画者”だけど、“天才CMプランナー”ではないんですよ。
一同:あぁ~、なるほど。
澤本:紙上の天才で終わっちゃって埋もれちゃう。それよりはつくって、「コイツそこそこつくれるんだな」っていう方向に僕は振っちゃったんですね。だから、よく聞かれて嫌なのは、
「自分のつくったCMで一番好きなものはなんですか?」という質問。
全部どこかで妥協していて、ちょっと点数を落としたりしているから、あのときここはこうしておけばよかったというのが頭を巡って、チャップリンじゃないけど「最高傑作は次の作品です」とか言って、次も妥協して、また次と、ずーっと(笑)。
角田:でも、ちょっと番組をダサくつくったほうが視聴率いくなって僕も思っていました。
澤本:あれって何なんでしょうね?
角田:かっこよくつくりすぎるとPVみたいになると。もうちょっとダサくしないとお茶の間ではダメだよと言っていて。でも、今はそれは間違っていると思っていますね。
中村:「MAKE TV」という番組を角田さんと一緒につくったときもテロップをもうちょっとシュッとしたやつにしてみたいなことをおっしゃってくださいましたよね。権八さんはそういうこと、あります?妥協するイメージはあまりないですけど。
権八:どうですかね。でも、僕らの仕事はどこまでが妥協で、どこからが妥協じゃないというのは微妙ですよね。色々な制約があって、だからこそ生まれるものもあるし、ちょっと何とも言えないな・・・。
角田:制約と妥協ってまた違いますよね。僕は制約ってとても大事だと思います。例えば、ロケでタレントさんが今日は2時間しかないと。そうすると撮影は1時間しか撮れないから、「1時間で何かを買ってこなければいけないゲーム」というふうに制約を利用してつくるのが企画だと思っています。だから、制約がないと企画はつくれないんじゃないかなと。
澤本:それはまさにそうですよ。
角田:それがあるうえでやっぱり妥協だなと思うときあるじゃないですか。だから、実は全然ベクトルが違う話なんじゃないかなと思いますね。
澤本:僕が広告について人に説明するときは、「制約があるゲーム」とか、「制約がある芸術」と表現しています。芸術とは言ってはいけないけどね。制約がいっぱいある。いっぱいあって、それをすり抜けてうまくいったときはいい広告ができる感じがありますよね。
角田:自分はバラエティ番組のプロデューサーだとずっと思っていたんですけど、最近はバラエティプロデューサーと名乗っています。バラエティって、色々という意味ですよね。最初はテレビというフレームの中で企画を考えていて、いつもそこに落とし込もうと思っていました。でも、そうじゃなくて、面白いものがあって、それが結果的にテレビで放送されているという風に、原因と結果を逆にしちゃってもいいんじゃないかなって思ったんですよね。
そう考えると、「オトナの!」はゼロ次利用になる。1次利用は放送、2次利用はグッズ販売やDVD。ゼロ次利用とは、視聴率ベースでお金をもらうのではなく、放送する前にクライアントさんといっしょにビジネスモデルからつくろうという形です。そこは気持ちの問題ではあるんですけれど、ゼロから一緒にビジネスモデルをつくりましょうよ!とできたものが1次の放送で拡散されて、それが結果的に広告にもなるし、PRにもなるんだと。
中村:なるほど。
角田:要するにPRありきでつくるのではなく、まず面白いものをつくりましょうと言っているんです。だから、ゼロ次利用が新しいメディアとか、広告のあり方として根付くと、「ゼロのところにお金がいく=つくり手にお金がいく」ということになる。結局、つくり手にお金がいくようにならないと、どんどんピュアに面白いものが減っていくという危惧が根底にありますね。