監査役の裏切り! ハゲタカファンドによる乗っ取りの危機にさらされ、経営陣は最後の逆転の一手に何を考えたか?-『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(7)

【前回のコラム】「産業スパイ事件!社運をかけたプロジェクトの崩壊、信頼していた部下に裏切られたら?—『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(6)」はこちら

『リスクの神様』第7話では、百貨店、スーパー、ホテルなどを事業展開する、サンライズ物産が大株主となっている烏丸屋ホールディングスで事件は発生する。創業家一族のお家騒動を背景に、解任された創業家当主がハゲタカファンドを従えて乗っ取りを計画、流れは完全にファンド側の勝利のように見えたが、西行寺は最後の逆転の一手に望みをつなげていた。

このコラムでは、毎回の放送後に『リスクの神様』の見どころや危機管理と広報の教訓、キーポイントなどを本ドラマの監修者で危機管理の専門家としての筆者の目線から解説していく。

第7話のあらすじ

西行寺(堤真一)は、サンライズ物産が筆頭株主を勤める、百貨店、スーパー、ホテルなどの事業を展開する烏丸屋ホールディングスが、乗っ取りの危機にあることを知る。同社では1年前、社長の岡崎竜太郎(小野武彦)を、息子である大樹(中村俊介)が解任し、自ら新社長に就任した“お家騒動”が勃発。しかし、その後は買収した日陽ホテルがわずか3カ月で経営破たんしたこともあり、烏丸屋の株価は下がり続けていた。
大樹を訪ねた西行寺とかおり(戸田恵梨香)は、監査役の花村(大谷亮介)という男が日陽ホテルの負債を意図的に見逃した上、突然姿を消したことを知る。日陽ホテルの買収自体が烏丸屋乗っ取りを狙ったわなだと判断した西行寺は、サンライズ物産と並ぶ筆頭株主である竜太郎に会いに行く。そもそも日陽ホテルの買収は、竜太郎が持ち込んだ話だった。しかし竜太郎は、その経緯を明かそうとはしなかった。
そんな折、投資会社代表の片山(手塚とおる)が、烏丸屋株の10%を購入したと報道される。片山は大樹を訪ね、竜太郎を経営トップに復帰させることを提案。それが拒まれた場合は敵対的買収も辞さないと宣言する。西行寺の指示で花村と片山の関係を追っていた結城(森田剛)は、両者がつながっており、片山の背後にはある外資系ファンドがついていることをつかむが…。

第7話の教訓—スピンドクターは密かに確実に企業を狙っている!

第7話では、企業の乗っ取りというキーワードを背景に、これまで以上に早い展開で企業の危機的事態が進行していく。危機というのは、通常の状況でも、気がついたときにはかなり手遅れになっていることも少なくないが、精緻な計画のもとに実行される企業の乗っ取りでは、初期段階から二の矢、三の矢が打たれ、危機対策を構築する前に企業側のダメージは拡大し、万策尽きることもある。

ドラマ内では株式の争奪戦に際して、「TOB(株式公開買付)」「ホワイトナイト」「第三者割当増資」といった専門用語も飛びかう。見所としては、創業家の親子間での敵対的関係、役員・監査役間の立ち位置、ハゲタカファンドとホワイトナイトとの関係など、誰が味方で誰が敵なのか、刻一刻と状況は大きく変化し、先が読めない展開が続いていく。

特に、聞き慣れない言葉として「スピンドクター」という言葉も西行寺から発せられる。ファンド側から送り込まれた花村監査役のことを指して「スピンドクター」とドラマでは解説しているが、ここでは「烏丸屋ホールディングスの役員を陥れるために意図的に偏った情報を操作」していた人物である。

花村は、乗っ取りが具体化する6カ月以上前に監査役として烏丸屋ホールディングスに入り込み、内部情報をファンド側に内通するとともに、さりげなく「日陽ホテル」の巨額投資話を前社長を通じて社内に狡猾に進め、その一方で粉飾決算が発覚、投資3カ月後に破綻した後は、全責任を烏丸屋ホールディングス取締役会になすりつけて情報をマスコミにリーク、株価下落の要因を作って、退職願を置いて姿をくらますといった、まさに諜報活動さながらの情報操作を行った。しかも「日陽ホテル」破綻のタイミング、花村の辞任は、烏丸屋ホールディングス株主総会直前という絶妙の時期に計画され、取締役会の株主に対する信頼の揺らぎを計算に入れたファンド側の精緻な策略に基づくものだった。

西行寺は、これまでも自ら対策室メンバーやサンライズ物産役員に告げず隠密行動や情報操作を行う経験を有していたことから、花村の動きに注目、10手先の危機対策シミュレーションを密かに検討していた。しかも、この対策は、百戦錬磨のハゲタカファンドすら予測できないものだった。

(注1)「TOB」:株式公開買付とは、ある株式会社の株式等の買付けを、 「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のこと。

(注2)「ホワイトナイト」:敵対的買収防衛策として、有事に導入される。「白馬の騎士」ともいう。敵対的買収を仕掛けられた会社の経営者が自らにとって友好的な第三者である会社に買収してもらうことで会社を守ろうとするもの。

(注3)「第三者割当増資」:株式会社の資金調達方法の一つであり、概ね、株主であるか否かを問わず、特定の第三者に対して募集株式を割り当てる方法による増資のこと。

次ページ 「第7話の見所・創業家一族の内紛から生まれる最大の危機」へ続く

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白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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