【特に有利な発行価額による新株発行の実務】
大幅なディスカウントと有利発行
東京地裁(昭和47年4月27日判決)は、公正な発行価額は原則として市場価額を基準として定めるべきことを示しながら、株式が異常な投機の対象とされ、その市場価額が企業の客観的価値より高額である場合には、その市場価額を基準となしえない旨を判示し、企業提携の見込みを反映して株価が高騰している場合には、企業提携に影響されない時期の市場価額ないし企業の客観的価値を基準として適正に定められた価額が公正な発行価額であるとした。このように第三者割当増資を行う場合には、できるだけ多くの観点から会社が発行価額決定の基準として株価の合理性を根拠づける必要がある。発行価額の合理性を裏付ける意味からも、複数の専門業者(証券会社等)に株式評価を依頼することが妥当である。
【著しく不公正な方法による新株発行の実務】
不公正発行に関する判例
新潟地裁(昭和42年2月23日判決)は、会社において真に資金調達の必要がある以上、その調達の方法は取締役の裁量に委ねられているから、新株発行の合理性を疑わしめる特段の事情が認められない限り、当該新株発行は少数支配に対する排斥の意図とは無関係になされたものと認められると判示した。この判例は第三者割当増資の合理性を具体的に認定したものとして重要な判例と言われている。
第三者割当増資の目的
会社支配権についての争いが存在する状況下で第三者割当増資を行う場合、当該新株発行の目的の一つに反対派株主の会社支配権の低下を図る目的があることが、事実上推認される。従って、他になんらの合理的理由が認められない場合には、当該新株発行は不公正発行に該当する。上記状況下において新株発行を行う場合には、反対派株主の支配権低下という目的に優先する合理的な存在が必要である。この目的としては、資金調達、資本・業務提携、従業員持株制度の促進等が考えられる。これらの合理的理由の立証責任は差止めを請求する側が負うが、疎明資料の存在さえ請求すれば、会社側が資料を用いて疎明するのが一般的である。また秀和事件での判示では支配争奪戦の中で重大な第三者割当増資を実施する場合には、会社がその合理性を立証しなければならないとした。
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。
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