電通、オンライン動画の専門チーム立ち上げ

電通はこのほど、オンライン動画のプランニングから制作・PDCAまでを担う専門チームを発足した。チーム名は「鬼ムービー」。クリエイティブのほか、メディア、PRの各部門からデジタル領域の知見を持つスタッフを集めた部署横断の組織で、30人程度のコアメンバーで構成される。PR領域については、電通パブリックリレーションズのスタッフがチームに加わる。

チーム発足の経緯やビジョンについて、佐々木康晴氏(電通CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)、鹿間天平氏(電通MCプランニング局 インタラクティブ・プロデューサー)、根本陽平氏(電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局シニア・コンサルタント)に聞いた。

佐々木康晴氏、鹿間天平氏、根本陽平氏

佐々木康晴氏、鹿間天平氏、根本陽平氏

クリエイティブ、メディア、PRの専門家を集結

――オンライン動画の専門チームをいま立ち上げたのはなぜですか。

鹿間 オンライン動画への注目度は前から高まっていましたが、例えばYouTuberのHIKAKIN(ヒカキン)さんがテレビCMに出るなど、以前ならネットの中でのみ広がっていたコンテンツがマスメディアを通じて次々に出て行くようになったのは最近の傾向です。「壁ドン」のようにネットで話題の文化が、その枠を飛び出してマス向けのクリエイティブとして使われ、それが再びネットで拡散するような動きも見られます。そんな中で、電通としてもオンライン動画についての知見を蓄積していく必要があると感じたことがきっかけです。

準備期間は半年ほど。クリエイティブとPR、メディアの各領域についての勉強会を行うなどして、チームとして戦闘準備は完了したと思えるようになったので、社内外に告知していくことにしました。

佐々木 オンライン動画のクリエイティブについては、それぞれ個々では追求してきましたが、動画を取り巻くプラットフォームや広告メニューが次々に登場し、表現手法の一つとして急速に確立しつつある中で、クリエイティブだけでそれを探究するのは限界があると感じていました。

マスを中心とした従来型の広告キャンペーンでは、メディアチームはメディアプランをつくり、僕らはそれを受けてクリエイティブアイデアを生み出し、PRはPRスタッフで企画を立てて実行するという分業体制です。成熟し、確立されてきた世界だからこそ、それぞれの専門家が各自の領域を追求することで最大の効果を上げてきました。でも、オンライン動画は未だ正解のない未開拓な領土だと思います。新しいメディアの使い方、表現手法、拡散方法がこれからいくつも生まれる予感がしています。今は横の連携をもっと強くして、お互いの「領域侵犯」をしながら一体となって進めることが効果的だと考えています。

根本 PRの仕事の一環で動画制作に関わる機会も相当増えています。バイラル動画で拡散させたいという狙いだけでなく、認知拡大や購買促進につなげるなど、目的も多様化してきました。めまぐるしく変化していくオンラインの世界で、知見や事例が一様に集まる体制を通じて領域を開拓していきたいと思います。

――チームの体制は。

佐々木 社内でもデジタル分野に強く、意欲のある人材を集めてコアメンバーとしました。実際のプロジェクトではそれ以外のメンバーが加わることもありますし、そのつど必要な人を巻き込みながら、あまり固定せず流動的に進めていきたいと考えています。

鹿間 今のところ、週1回定例でミーティングを行っています。クリエイティブ、メディア、PRの各スタッフが同じ土俵に立てるよう、各領域の情報や問題意識などを共有するところから始めています。

バイラル動画は手法の一つに過ぎない

――オンライン動画を使ってどんなことが提案できそうですか。

鹿間 動画はコミュニケーションのどんなすき間にも入ってくるものだと考えています。テレビCMを補完する役割であればリーチを最大化させる予算配分を提案できますし、テレビのクリエイティブが届きにくい人たちにはWebの文脈に沿ったクリエイティブが考えられるでしょう。また、雑誌には編集部の視点で原稿をまとめる編集タイアップという手法がありますが、それを動画で行い、第三者目線で商品理解を促進させるような方法もあります。

クライアントから「とにかくバズる動画をつくってほしい」といったオーダーをいただくことは少なくないですが、バイラル動画は手法の一つに過ぎないと考えています。そこは理解を促していきたいですね。だからこそ常日頃、広告主のコミュニケーション全体をプランニングしているメンバーで全体を俯瞰しつつ、オンライン動画に持たせられる役割を突き詰め、提案していきたいと思っています。

佐々木 動画はCM以上にいろいろな役割を持たせることができます。「買ってもらう」だけでなく、「気づかせる」、「何か言いたくなる」、「仲良くなる」等々。それが全体のコミュニケーション設計の流れに沿っていなければいけません。知見を蓄積していく中で、様々なパターンを提示できるようになると思っています。

――PRの視点から、動画の可能性をどう考えますか。

根本 オンライン動画はテレビCMと違って、置くだけなら無料ですがそれだけで見てもらえるわけではありません。我々はいかに人の言の葉に乗せていくか、いかに第三者にピックアップしてもらえるか、シェアされるかなどの“語られる”視点を常に考えているので、オンライン動画との親和性は高いと考えています。逆に言えば、動画の制作においてPRの視点は欠かせないと言えると思います。

PR視点を盛り込んだ動画制作には大きく3つの特徴があります。1つはニュース性のあるもの。これはメディアにとってのニュースということもあれば、一生活者に深く刺さる“What’s New”もあります。2つめはコンテンツ主語で語られるもの、企業や団体からの一方的な発信ではない生活者同士でシェアしたくなるコンテンツです。3つめは、情報流通の経路を捉えたものです。話題になったコンテンツは、どこからどう伝わって火がついたか、といった情報流通構造に着目し、分析すると気づくことが多くあります。

これらの視点をクリエイティブに生かすことができると考えています。

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