【前回の記事】「[R30メディアパーソン座談会]いま私たちが向き合う課題と挑戦(前編)」はこちら
*本記事は9月1日発売、月刊『宣伝会議』10月号の巻頭特集「激変するメディア環境とテレビの未来」内の記事を先出し、公開したものです
林:いいコンテンツをつくるだけでなく、見てもらうためにも尽力しなければならないということですね。新聞も、読んでもらうためのコストがどんどん上積みされています。ただ一方で、芥川賞を受賞した『火花』のようにコンテンツに圧倒的な新規性と作品の魅力があれば、これだけ世間で受け入れられる土壌があることも事実で、ある意味救いです。朝日新聞を読まずにはいられない!そういうコンテンツになっていないのが歯がゆいですね。
いま朝日新聞は2000人の記者を抱えていて、みんなで「朝日新聞」というメディアをつくっていますが、「メディアラボ」では、新しいメディアについて、読者を細かくセグメントして、その層に届く書き方、媒体を構築することを考えています。1つのメディアで500億円売上げようとするのではなく、10億円売上げるメディアを50個つくるイメージです。
段野:「見逃し配信」では、中島さんもご承知のとおり、実はコンテンツ量を増やすことが労力的に大変なのです。コンテンツ増加は視聴回数増やブランディングにも役立つのですが、現状だと配信できる数には限度があって…。そこはコンテンツ=新聞記事という新聞メディアの強みではないでしょうか。
林:そうかもしれませんね。文章はシンプルなだけに価値付けがしにくい所もありますが。それと、コンテンツ提供としての新聞社自体がもっと評価されるような仕組みをつくりたいと思っています。現状では、あるポータルサイトと朝日新聞記事の配信を契約して、提供した記事のコンテンツ力で、契約したサイトの広告出稿やアクセス数が増えたりしても、こちらのメリットは少ないんです…。この状況をなんとかできないかと模索しています。それこそ「見逃し配信」のような、自社で顧客と直接コンテンツをやり取りする方向を諦めたくないですね。
メディアの進化・変化とは?
段野:メディアの未来を考える時、伝送路・再生端末などハード面と、コンテンツというソフト面は分けて考える必要はありますが、コンテンツの制作にずっと携わってきた人間と技術畑の人間ではやはり考え方に違いがあるので、双方にとってどんな形が望ましいか考えられる人を作ることが重要だと思います。また、新しいメディアの形というのは、電波を使った放送の延長やインターネット配信にはないのかもしれません。新しいメディアをつくるには、デジタルネイティブと言われるような僕らよりももっと若い世代の力が必要だと思っています。
中島:僕も将来的に、テレビについてはコンテンツをつくるだけでなく、そのコンテンツに適した流通経路をその都度考えていく必要が出てくると思います。それとやっぱりテレビC Mの広告収入をどう維持するかが大事。そのために、テレビC Mの付加価値をスポンサーに対してアピールし続けることが重要だと思います。いずれにしてもテレビ局としては、クオリティの高い、面白いコンテンツをつくり続けて、売上を維持してくことが不可欠です。そうしないと2023年頃大変なことになるな、と…(笑)。
段野:映像コンテンツに求められるクオリティは変わらないと思いますが、それを流通させるフォーマットは進化していくでしょう。コンテンツは視聴されてこそ価値を生むものですから、ターゲットが集まるポイントにそれぞれの人に適したフォーマットで配信していく。
例えばニュースサイトだとあまり立ち止まって見てもらえないから5秒尺の番宣を流す、動画配信サイトでは放送回の一番面白いところを丸々流して興味をもってもらうなど流通の仕方は進化していくと思います。ただ、一番忘れていけないのは、本業の地上波の広告収益ですね。ネットで100万円売上を伸ばしても、テレビCMが1億円減額されたら意味ありませんから、放送視聴率回帰が本道だと思います。中島さんもおっしゃっていましたが、広告費が削られている中でいかに単価を維持するか、地上波の広告が有用かを示すことが課題です。
林:お二人のお話を伺うとやはり、テレビよりも新聞の方が圧倒的に危うい立場にあるなと思いますし、メディアとしてのリッチさの違いを感じます。
けれど、テレビが出てきた時に新聞メディアには限界があると言われながらも朝日新聞は136年もの間、続いてきましたし、希望は捨てていません。若手社員のなかでも、紙(新聞)と朝日新聞というブランドに今後どこまでこだわっていけばよいか、みんな危機感を持って考えていますし、実際新たな可能性に挑戦していこうという動きもあります。記事をデジタル化した時、ポータルサイト側などが今は優位ですが、記事のコンテンツを生み出している側としては、「コンテンツの逆襲」を虎視眈々と狙っていくつもりです。
中島 啓介
TBSテレビ 次世代ビジネス企画室 兼 情報制作局 情報三部 プロデューサー
番組プロデューサー。2009年の入局後、バラエティ制作局を経て2012年に次世代ビジネス企画室へ異動。以降「リアル脱出ゲームTV」「マッチング・ラブ」などを企画・プロデュース。セカンドスクリーンとテレビとを連動させた新たなテレビ体験・ビジネスモデルの開発を目指す。
林 亜季
朝日新聞社 記者
朝日新聞社メディアラボ員。1985年生まれ。東京大学法学部卒、同情報学環教育部修了。2009年、朝日新聞社入社。記者として高松総局、阪神支局(宝塚支局長)を経て、13年から現職。記者経験を生かし、新規事業の立ち上げに携わっている。