海外にも通用する金箔メーカー発のブランドをつくる―箔一「LUNAU」

株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第4号(2015年8月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

地域に根差す企業とクリエイターがパートナーとなり、新しい価値を生み出した事例を、手がけたクリエイターが自ら解説。今回は、新幹線開通で盛り上がる北陸地方の事例です。

海外にも通用する金箔メーカー発のブランドをつくる伝統とデザインの力

日本の金箔生産量の98%以上を占める金沢。1975年に、この地で創業した金箔メーカーの箔一は、金沢箔工芸品の製造からスタートし、時代の変化に合わせて、金箔を軸に幅広い分野へと事業を拡大してきました。箔材料、食用金箔、建築装飾、そして化粧品。私は、2006年から強化が進められてきた同社の化粧品事業において、高級スキンケアブランド「LUNAU(ルナウ)」の立ち上げに携わりました。

箔一の化粧品事業は、創業翌年に同社が日本で初めて開発した、金箔打紙製法による「あぶらとり紙」に端を発します。しばらくはOEM 製品を中心に、あぶらとり紙の生産を続けていましたが、創業者で現会長の浅野邦子氏が、「女性の『美』をトータルでサポートしたい」「金沢発の化粧をつくりたい」と思い立ち、それまではあまり力を入れてこなかった自社ブランド商品の生産に着手。自然派化粧品ブランド「金華コスメティック」を発売しました。

さらに、今後、化粧品事業を拡大していく上で、箔一の化粧品が目指すべき方向性を再検討した結果、“ご当地コスメ”の域を超えた、明確なストーリーに基づくブランドをつくる必要性を感じたそうです。そうして、まずは「金華コスメティック」のリニューアルをしたいとのことで、化粧品のデザインの実績がある当社に声をかけていただきました。

脱・純和風の世界観

浮遊する金箔を美しく見せるため、メインビジュアルは、容器の下から光を当てた状態で撮影した。

しかし打ち合わせを進めていく中で、金箔を使った化粧品が他にもある状況下では、徹底的に差別化されたブランドが必要という結論に至り、高級ラインを先に立ち上げることになりました。そうして生まれたのが「LUNAU」。世界の美容家たちが着目する美容保湿成分・金をはじめ、先端成分を配合した高級スキンケアブランドです。当社では、ネーミング、VI、パッケージをトータルで手がけました。

同ブランド最大の特徴は、海外、特にアジア圏への展開を前提としていたこと。海外に通用するブランドイメージを訴求する必要がありました。日本では化粧品というと、白を基調とした清潔感のあるデザインが主流ですが、海外では黒などの濃い色を基調としたムーディーで艶っぽい雰囲気のものも多い。いわゆる“ 純和風” の世界観は避けたいというクライアントからの要望もあり、オリエンタルな雰囲気をベースに置くことにしました。

ブランド名の「LUNAU」は、LUNA(ラテン語で「月」)とAU(金の元素記号)を組み合わせた造語で、海外の方にとっての語感の良さ、理解しやすさにも配慮しています。ロゴは、伝統工芸に携わる企業としてのアイデンティティを込めようと、金沢の歴史や日本の伝統紋様などを研究した上で、月や万華鏡をモチーフに構成しました。

ネーミングとロゴ、双方において上品な月と金のイメージを重ね合わせることで、控えめでありながら内面から溢れ出す、日本の女性の「美」を表現しています。

金箔メーカーならではの表現

金箔メーカーならではのこだわりは、特に容器のデザインで表れています。化粧水や美容液は普通、無色透明の液体ですが、LUNAUの商品には金箔が浮かんでいる。それを最大限に生かせる容器を考える必要がありました。そこで、漆塗の伝統的な技法「白檀塗(びゃくだんぬり)」をヒントに、中に入った金箔の輝きが見やすい透明なボトルをデザインしました。

メインビジュアルは、容器の下から光を当てて撮影することで、金箔が最も美しく見える瞬間を捉えています。「金箔は、浮遊している状態で光が当たったときに最も美しい」というのは、金箔メーカーならではの視点。箔一のメイン商材である金箔の価値をいかに伝えるかを、最重要視しました。

本田孝夫(ほんだ・たかお)
デザインオフィス・ティー 代表
牛山淑子(うしやま・よしこ)
デザインオフィス・ティー アートディレクター
URL:http://www.d-tee.co.jp/


CLIENT VOICE:新たな挑戦を世の中に発信するには、クリエイティブの力が不可欠

伝統を継承するだけでなく、現代のライフスタイルに合わせて新たな挑戦を続け、それを世の中に向けて発信していくことを、全社的に重視しています。クリエイティブには、商品の背景にあるコンセプトをターゲットに向けて分かりやすく伝える力がある。クリエイティブに適切な投資をすることが、愛されるブランドづくりや、事業の成長につながることを、LUNAUをモデルケースに、全社に向けて伝えていけたらとも考えています。

浅野 達也(あさの・たつや)
箔一 代表取締役社長

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