—今日は、最近買ったドレスを着ていただいています。とても素敵なドレスですね。お似合いです。
ありがとうございます。このドレスは、4月から6月にかけて開催した展覧会「山口小夜子 未来を着る人」のオープングに着るために買いました。山口小夜子という人は、天性のファッショニスタで、新しいものへの好奇心を最後まで捨てなかった人です。晩年には、若い世代の表現者たちとコラボレーションを行い、若い才能と自分が培ってきたネットワークを“つなげる”ということを意識的に行ってきました。
そんな彼女の展覧会を紹介する者として、オープニングではファーストコレクション(ブランドが世に出る最初のコレクション)や若いデザイナーの洋服を着たいと思ったんです。若いデザイナーを紹介している伊勢丹新宿店の「TOKYO解放区」で見つけたのが、このドレスです。
—斬新なデザインですね。
そうなんです。よく見ると先端が切りっぱなしで、DIY感があります。ロマンチックテイストとパンクテイストが同居していて、すごく“小夜子さんっぽい”と思いました。これは「differess」というブランドですが、このドレスをオープニングで着たことをツイッターでつぶやいたところ、デザイナーご本人が検索して私に連絡してくださいました。それがきっかけで展覧会や、私が出演したイベントに来てくださるなどつながりが生まれました。「dress」と「difference」を掛け合わせて作った「differess」というブランドコンセプトや、有名メゾンのパタンナーだった彼女の経歴も直接伺うことができました。
—小夜子さんをきっかけに、「買う」という行為がそれ以上の広がりを生んでいますね。
いま、「買う」という行為のひとつのきっかけとして、そこにいかに「物語」を見出せるかということがあると思います。私自身、「ファーストコレクションの服を着たい」という小夜子さんにつながる物語を求めてdifferessのドレスを買い、デザイナーご本人との出あいでさらに物語が広がりました。このような経験は、私の職業がキュレーターだからではなく、普通にあちこちで生まれていると思います。その理由の一つに、買い手と作り手が直接つながることのできる世の中だということがあると思います。「この服を買った」とSNSで発信すれば、作り手から直接連絡をもらえる時代です。そのうち、お店を選ぶのではなく、「人」を選ぶ、「この人の作ったものだから欲しい」という消費行動が普通になっていくでしょう。買い手が作り手の活動やその奥にある思いをより深く理解することで、単に「ものを買う」以上の物語が生まれているのだと思います。