【経緯まとめ】五輪エンブレム、盗作疑惑を改めて否定も現行案取り下げ―海外メディアも話題に

「リエージュの一件とは異なる、新たな事態の発生」で急展開

使用中止の結論に至った背景には、前出の原案の公開があった。公開の翌29日に、佐野案選出の重要な事由であった、エンブレムの展開力・拡張性を説明する画像の一部が「第三者のWebサイトにあるデザインの流用ではないか」という指摘がなされた。

さらに30日には、「原案が、世界的タイポグラファー ヤン・チヒョルトの展覧会のポスター/バナーのデザインと酷似している」との声があがった。これを受けて組織委は、「リエージュ劇場の一件とはまったく異なる、放置できない新たな事態が起こったと認識」し、佐野氏本人に直接話を聞くことを31日に決めた。

一連の騒動や訴訟問題とエンブレム取り下げは無関係と強調した武藤氏。

一連の騒動や訴訟問題とエンブレム取り下げは無関係と強調した武藤氏。

翌1日午前中に、佐野氏、審査委員長の永井一正氏、組織委で協議したところ、エンブレムの拡張性の説明に使った画像の一部が、第三者の著作物の流用であると佐野氏が認めた。

「拡張性の説明資料は、佐野氏が応募当時、審査会というクローズな場のみで提示する内部資料として制作したもので、それ自体に問題はないと審査委員会の見解を聞いている。それが7月24日のエンブレム発表時、また8月28日の原案公開時にも使われた。一般公開にあたり権利者の了解を得るのを怠ったことは、佐野氏自身が過失を認めており、組織委としても配慮を欠いた」と謝罪。

事後ではあるが、権利者にはすでに佐野氏から連絡をとっており、対応について相談をしているところだという。

また、原案との類似性が指摘された「ヤン・チヒョルト展」のポスター/バナーデザインについては、「たしかに展覧会には行ったが、ポスターやバナーは記憶にない。

ヤン・チヒョルトのイニシャルである『J』と『T』に添えられた円形は『ドット』であり、自身のデザインにある、日の丸や鼓動、情熱を表す円形とはコンセプトが異なる。模倣ではなく、オリジナルである」(佐野氏)とし、疑惑を否定したという。武藤氏が永井氏の判断を仰ぐと、「デザイン界の理解としては、佐野氏のデザインとヤン・チヒョルト展のデザインは全く異なるもので、佐野氏のデザインはオリジナルであると認識できる。

しかし同時に、このようにいろいろな形で問題が起こっている中、一般国民がそうした説明で納得するか―その点には問題があると言える」との見解が示されたという。

この協議の場で、佐野氏から前出の取り下げ要望が出された。佐野氏と永井氏の要望・判断を受け、組織委は「もはや一般国民の理解を得られない」との懸念で三者が一致したことを確認。「現行案を取り下げ、新たなエンブレムの開発に向けたスタートを切ることが、事態の解決をめざすうえで最もふさわしい」(武藤氏)との結論に至ったという。

続けて、永井氏以外の審査員に電話などで取り下げの旨を連絡。8人中7人が「取り下げはやむを得ない」「永井氏に対応を一任する」との認識を示した。最終的には、同日16時からの調整会議の場で関係団体トップに事態を報告、取り下げが確定した。

これに伴い、デザインの当選賞金100万円は佐野氏への支払いを取り消すという。

公式スポンサーの中には、すでに佐野案のエンブレムを使った広告を掲出しているところもある。現行案の使用中止による損失は、現時点では具体的に算出していない。各社には、組織委が文書や面会で説明し、理解を求めた上で、広告物では、日本オリンピック委員会・日本パラリンピック委員会が定めるエンブレムへの差し替えなどを呼びかける。

次ページ 「「ひらかれた審査プロセス」をめざす」に続く

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