「ひらかれた審査プロセス」をめざす
組織委は、現行案の使用中止の決定を受け、ただちに新エンブレムの募集・選考に入りたいとしている。具体的な選考方法については追って発表するとし、1日の会見の場では明言を避けたものの、デザインは公募を前提とし、「より開かれた選考過程」を検討していきたいと話した。
「商標登録がなされていない著作権物は世界中に多く存在し、これらをすべて事前にチェックしてリスク100%を回避することは、現実的には難しい。出てきた問題に、都度適切に対応していくしかない」(武藤氏)、「候補を公開し、一般投票でデザインを決定すれば良いという声もあるが、選考中、つまり商標登録前のデザイン案を画像検索にかけることは、第三者によって先に商標登録が行われる懸念もある。
そうした制約のある中での審査となることに変わりはない」(組織委 マーケティング局長 槙英俊氏)という考えを示したうえで、「多くの人の意見を聞くことで、懸念を払拭するような、オープンな審査方法を模索する。
2020東京五輪を象徴する存在として、国民に広く愛される、指示されるエンブレムをめざしたい」(武藤氏)とした。
1日時点で、東京2020公式サイトからは佐野案のエンブレムは外され、「桜のリース」をコンセプトとする招致エンブレムに差し替えられている。新エンブレムの審査スケジュールや決定時期は未定だが、組織委は、できる限り早期の決定に向けて動くとしている。
現行デザインの廃案については、海外メディアでも報じられている。米アドエイジ誌電子版では、このニュースを取り上げた記事を「組織委は、ベルギーの劇場のロゴの盗用であるとの主張を受け、佐野研二郎氏による五輪エンブレムデザインを取り下げた」と切り出している。
また組織委が「関知しない」(武藤氏)としている、佐野氏のクライアントワークにおいて発覚した「トレース問題」などの騒動と、今回のエンブレムの取り下げを関連付ける記述も見られる。
また、英BBCニュース電子版はメインスタジアム建設計画の見直しに伴う着工の遅れにも言及し、「日本は五輪招致国として安泰とみられていたが、1日の会見は、ここ1カ月の無様な成り行きの極めつけとなった」と辛辣なコメントを寄せている。
「一連の騒動や訴訟問題と、今回のエンブレム取り下げは無関係」という組織委の主張は、海外に届いていない。五輪開催地としての日本の信頼を損ないかねない事態―名誉挽回は、今後の迅速・適切な対応にかかっている。
“五輪エンブレム問題”における主な議論と、それに対する組織委の主張
◯現行案は、ベルギーのリエージュ劇場のロゴに非常によく似ている。盗作ではないか。
佐野氏、審査委員会、組織委とも、盗作を完全に否定。リエージュ劇場のロゴと佐野氏のエンブレムはまったく別のデザインであるという認識で一貫している。◯佐野氏の原案は、ヤン・チヒョルト展のポスター/バナーのデザインに似ているのではないか。
佐野氏自身が否定したことに加え、審査委員長の永井一正氏も「国民の理解を得るのは難しいかもしれないが、専門家の見地から言えば両者は異なるもので、佐野案はオリジナルと認識できる」としたことを受け、組織委は、この両者の意見を了とする形で、疑惑を否定している。◯エンブレムの展開力・拡張性を説明する画像の中に、第三者のデザインを流用したものがあるのではないか。
佐野氏自身が流用を認めたことから、組織委も流用の事実を認識している。元々は内部資料として佐野氏が制作した画像であり、その点は問題がなかったと認識しているが、一般向けに画像を公開するにあたり、権利者への確認を怠ったことは過失であり、組織委も配慮を欠いたと反省。◯もともと、佐野案の採用ありきの選考だったのではないか。
審査の過程においては、一貫して制作者名は伏せられており、恣意的に佐野氏の作品を選んだ事実は全くないとの認識を示している。◯審査方法に問題があったのではないか。
募集から審査、商標調査に至るまで、然るべき方法をとっており、手続き上の問題はなかったとの認識。ただ、佐野案の展開力・拡張性を説明する資料の一部に、第三者のWebサイトの流用があったことは佐野氏自身が認めており、同資料の一般公開にあたっての配慮が不足したことは反省している。