【前回のコラム】「監査役の裏切り! ハゲタカファンドによる乗っ取りの危機にさらされ、経営陣は最後の逆転の一手に何を考えたか?-『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(7)」はこちら
『リスクの神様』第8話では、「不正会計」、すなわち「粉飾決算」が取り上げられている。サンライズ物産グループ会社トウセンで、不適切な経理処理がなされ黒字計上されているとの内部告発があり、危機対策室メンバーは密かに調査を開始する。
一見、順風満帆に見えたトウセンの財務状況だが、調査が進展していくにつれて、財務諸表に隠された真実が見えてくる。突破口ができたと思われた瞬間、襲われる結城(森田剛)、証拠隠滅になりふり構わぬ何者かの暴挙に立ち向かう危機対策室。そんな中、西行寺は追いつめられながらも、ピンチをチャンスに変えるべく、味方にも隠して大きな罠を仕掛けていた。
このコラムでは、毎回の放送後に『リスクの神様』の見どころや危機管理と広報の教訓、キーポイントなどを本ドラマの監修者で危機管理の専門家としての筆者の目線から解説していく。
第8話のあらすじ
西行寺(堤真一)は、サンライズ物産専務の白川(小日向文世)から、事業失敗の責任を取って異動させられた、かおり(戸田恵梨香)を希望する部署に戻してやりたい、との提案を受ける。また、白川は、社長の坂手(吉田鋼太郎)が進めるメタンハイドレート開発プロジェクトなどの資料を提示し、坂手の独断的な経営がこれ以上続けば、企業にとって危機となるかもしれないと西行寺に告げる。
そんな折、グループ企業の社員を名乗る人物から内部告発のメールが届く。サンライズ物産創設期から取引がある総合衣料メーカーの「トウセン」が、不正会計を行い黒字を計上しているという告発だった。西行寺は、かおりや結城(森田剛)らに内密に調査をするよう指示。財務諸表からは問題は見つからなかったが、かおりはトウセンがこの5年間、常に同じ割合で業績を伸ばしていることに不審を抱き、繊維事業部を統括する白川に相談を持ちかけ、調査に協力してくれそうな取引先企業をあたってもらうことにした。
この結果、帳簿上では仕入れているはずの商品在庫が倉庫にないことが判明。しかし、危機対策室の動きを察知したトウセン側から抗議が入ってしまう。西行寺たちは、トウセンの高中桐子社長(高橋ひとみ)と小松史郎経理部長(阿南健治)に会い、不正会計疑惑の真偽を探ろうとするが…。
第8話の教訓−「粉飾決算」、阿吽の呼吸で役員が部下に指示!
第8話は、企業の「巨額損失隠し」という暗部にスポットを当てて、密行性の高い調査が始められる。長期間にわたって財務諸表に改ざんが加えられている事例では、上級役員や経理部門の一部が関与して大規模な粉飾が行われる可能性があり、機密資料については外部の調査からは容易にアクセスできない場合や、周到な二重帳簿の存在などにより、直ちに発覚しない場合も少なくない。ドラマの中でも、危機対策室メンバーの調査は、初動の段階から苦戦を強いられることになる。
不適切な会計処理は、発覚すると過年度財務諸表の訂正や課徴金納付のほか、(上場企業の場合)上場廃止リスク、株価下落により取締役が投資家から訴えられるリスク、金融機関からの借入が制限されるリスクなどを招く危険性を伴い、会社の命運を左右する危機的事態に発展する。
ましてや社長自ら指示して「不正会計」を行った場合、内部統制システムの限界を超えて、当該企業のリスク管理態勢は崩壊する。
だからこそ、彼らの抵抗は本丸に近づくほど激しくなり、結束は益々固くなる。目の前に逃げ場のない証拠を突きつけ、証言を取ることがこの種の危機対策では重要な局面となるが、それでも役員クラスに追求の手が及ばないことも多い。
この種の事件では、社長が具体的に部下に指示したかどうかが最終的な争点となる。ドラマの場面では、高中社長が小松経理部長に対して「赤字は困るわ。銀行にも今期は好調だと伝えてあるのよ。融資に影響が出るじゃない。あなた、経理部長よね?」と詰め寄るシーンがある。小松はこのとき、「それを実質的な粉飾の指示だと解釈」したと証言している。
多かれ少なかれ、経営者が関与する「粉飾決算」の指示は、このような形で出されることがある。暗黙の了解のように、阿吽の呼吸で不正行為は開始される。
経営者が、いくら「従業員を信じすぎたことが唯一の過失」と言い逃れたところで、投資家も社会もこのような経営者を許すことはないだろう。