経営者に梯子を外された経理部長の無念!経営者が指示した「不正会計」に対して企業再生は可能なのか?—『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(8)

第8話の見所:「不正会計」はトカゲのしっぽ切りでは逃げ切れない!

高中社長は西行寺からの調査報告を受けて不適切会計疑惑と小松経理部長の関与を知ることになるが、しらじらしくも小松経理部長にすべての責任を押しつけ、「残った人間で信用回復に取り組む」とうそぶいている。

トカゲのしっぽ切りで逃げ切ろうとしている高中社長は、「自分は被害者だ」と西行寺に主張していたが、醜く自分だけが助かろうとしている状況を、西行寺は密かに小松に聞かせていた。自分の保身のためなら平気で仲間を裏切る社長の姿を目の前で見た小松は、憤りとともに静かに自白を始める。慎重な調査が必要となるが、このような仲間割れから真実が語られることが多いのも事実だ。西行寺は、犯罪者の深層心理をつかみ、確実に自白につなげたのだ。

このような自白は事件の解明では極めて重要となる。ましてや経理責任者の自白は個々の粉飾手口や金額の入出金、改ざん明細・時期などを含めて全体概要を把握する上で、証拠の保全に有益である。こうした重要な被疑者に引導を渡し、真実を話す決断をさせることが危機対策の成否を分けることにもなるのだ。

小松が西行寺に、粉飾決算を行った動機について語るシーンがある。「社長の期待に応えて出世したいという浅はかな打算や、社の窮地を救いたいという功名心」があったと素直に話している。このような犯人像の多くは、「自分がやらなくとも他の誰かがやっていた」と考えていることが多く、責任の重大さの認識が薄い者も少なくない。企業そのものが疲弊し、従業員が不正への関与に対して感覚的に麻痺している危機的事態の現れである。

次ページ 「不正会計への対処:「動機・機会」」へ続く

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白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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