不正会計への対処:「動機・機会」
今回テーマとなっている不正会計が行われる「動機」や「機会」について解説する。
社内外の特異な環境は、不正行為が行われる動機になり得る。一般的に、業績へのプレッシャーとして、①巨額の負債、②業界内の業績低迷、③株価維持・予想収益維持、④物言う株主、合併への圧力などが原因として挙げられる。
一方、個人的な財務プレッシャーも不正を働かせる動機には十分である。①生活スタイル(給与水準に見合わない生活スタイル)、②ギャンブルや個人的負債、③非標準的報酬(業績への過度なリンク)などがこれにあたるだろう。
また、最近では不正行為が発生する要因として会社とその従業員との敵対的関係も確認されている。その事例として、①既知の、または予想されている従業員の解雇、②従業員福利または給与制度の最近の、または今後予想される変更、③期待と一致しない昇進、報酬、またはそのほかの便益、④所属する事業部の閉鎖の懸念などがある。
さらに、脇が甘い会社では、不正リスクを排除しきれない以下のような「機会」を与えている場合がある。
一般的コントロール
- 資産責任者である従業員に対する経営者の監督が不十分(遠隔地にある拠点のモニタリングなど)
- 危険領域における不十分な職務分掌や独立したチェックの不足
- 重要な権限やチェック機能を有する社員に強制的な休暇がない
- ITシステムの脆弱性、システムのログ分析の未実施(ITシステムに対する経営者の理解が不十分)
- 物的コントロール
- 現金、有価証券、棚卸資産、固定資産等の処分可能有価物に対する資産保全手続が不十分
記録管理
- 資産に関する記録管理が不十分(例:固定資産元帳)
- 資産の移動につながる取引(例:購入)の承認システムが不十分
- 適時及び適切な取引のドキュメンテーション(例:返品処理)が不足
- 記録と物的資産との網羅的で適時の調整が不足(例:棚卸資産記録と実地棚卸との比較)
外部との共謀の可能性
- 得意先/仕入先との密接な結びつき
- 多数の関連当事者取引
- 長期固定化した契約・取引先
- 突然の取引先変更
不正行為はまた、以下のような事象で多くが観察されるので、見逃さないよう留意することが大切である。
(会計事象)
- 異常かつ説明されない差異(関係会社間債権債務)
- 異常又は説明されない帳簿と現物との差異
- 現金取扱いに関わる変則的な処理
- 過度の返金や返品
- 売上増に見合わない営業費用の増加
- 経理記録と現物保管の職務の非分離
- 会計記録の裏付けとなる文書、書類の欠如
- 過剰在庫
- 過度の年度末調整
(関連事象)
- 従業員の労働回転率が高い
- 連番が付されていない、あるいは無署名の書類
- 各種文書/データベースの無権限アクセス
こういった職場環境が助長されると、個人への不正の兆候も見え隠れし始める。以下のような状況が確認された場合は要注意である。
(経営陣)
- 異常な権限
- 無責任体制
- 威圧的経営スタイル
- 非標準的報酬
(従業員)
- 収入に合わないライフスタイル
- 家庭上の問題
- 薬物やギャンブルに依存
- 過大な負債
- ほとんど休暇を取らない
- 奇妙な時間に働く、他の従業員がいない時間帯に働く
- 道徳心の欠如
- 不満の常態化