IoT化したテレビでは何ができる?
中村:朴さんが代表を務めるバスキュールはテレビをインタラクティブにするということにずっと取り組んでいて、日本テレビとの合弁会社HAROiDを作ったばかりです。朴さん、HAROiDって何をする会社なんですか。
朴:HAROiDは、従来のテレビの役割だけではないテレビの時代を見据えた事業をやっていこうという会社です。2000年にバスキュールを立ち上げた時、「テレビをウェブでひっくり返してやる!」と意気込んでいたんですよ。でも、2007年あたりから「若者はパソコンをやらない」と言われだして…。当社は当時Flash中心だったので、Flashに対応していないスマホの台頭に、大きな危機感を持ちました。ただ、つまるところバスキュールの目標は、たくさんの人を集めて猛烈なインタラクティブ体験をかましたい!ということ。そこから、パソコンではなくテレビでもすごいことができるかもしれない、と思うようになったんです。
2年前には、参加型テレビの基盤「M.I.E.S.(ミース)」を独自で開発しました。M.I.E.S.はテレビの前にいる全国の視聴者のエモーションという、これまで触れることのできなかった膨大なインタラクティブのデータをテレビ番組と同時進行で処理するためのシステムです。視聴者参加型のリアルタイムお見合いや、巨大スペースインベーダーを視聴者全員の超連打でやっつける番組など、色々なエンターテインメントが展開できるようになります。
中村:テレビは放映されるものは基本一緒ですから、そこをインタラクティブな体験にするのは大変ですよね。
朴:なかなか想像しづらいと思いますが、大変なのは、実はテレビと全国の視聴者の何百万台のスマホを時間差なく同期させることです。1秒でもずれると「遅い!」とエンターテインメントとして成り立たなくなってしまいますから。僕はもっぱらエンタメ系の開発をしてきましたが、うちの別のスタッフは、「JoinTown」という、限界集落と言えるような高齢化の進んだ地域向け福祉サービスを開発しています。ネットに接続したテレビと住民の個人情報をひもづけて、例えば地震が起きると「○○さん、今すぐ避難してください!」というように、個人名と一緒に避難勧告などのメッセージがテレビに表示されるのです。避難したかどうかも、避難先でIDカードをかざすことで登録・共有できるようになっている。僕が知らないところで、社内でこんな素晴らしいサービスが開発されていた(笑)。まさにテレビをIoT端末として捉えることで、パブリックなテレビの画面にパーソナル情報も表示できるようになるのだと思います。
<後編につづく>
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朴 正義(ぼく・まさよし)
バスキュール 代表取締役/クリエイティブディレクター。2000 年にバスキュールを設立 後、15 年にわたりトヨタ、コカ・コーラ、ユニリーバ、ナイキ、ソニー、パナソニック、ポケモンなど、 数多くの企業やブランドのデジタルプロモーションの企画ディレクションを担当。これまでに担当した100 以上のプロジェクトで、カンヌ、クリオ、ワンショー、ADC、文化庁メディア芸術祭など、国内外のクリエイティブ賞を受賞。ここ数年は、テレビ×ネットという領域で多くのチャレンジを行うとともに、従来の枠を飛び越える次世代クリエーターの育成活動であるBAPAに注力している。
野添剛士(のぞえ・たけし)
SIX 代表取締役/クリエイティブディレクター。2000 年博報堂入社。デジタル関連部門、マーケットデザイン部門で経験を積んだ後、クリエイティブへ。2013 年に SIX を設立し、代表取締役社長に就任。2013年カンヌ審査員。主な仕事は「SPACE BALLOON PROJECT」「JIM BEAM」「adidas サッカーW 杯日本代表」など。受賞歴は、 2011 年度クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、文化庁メディア芸術祭グランプリ、カンヌ、ACC マーケティングエフェクティブネス部門グランプリ、SXSW での受賞ほか。現在は、トヨタ、サントリー、グーグルとともにマス・デジタルを横断したキャンペーンを行うとともに、リリックスピーカーなどによる商品開発を通した「コトづくり」にも注力している。