「人が知らないこと」は、「つくる」もの
そんな時代に、Webメディアやニュースサイトに求められるのは、「他のメディアと異なる視点で、人々の知りたいことをつくる」こと。大事なことなのでもう一度言いますが、人が知りたがる情報は「つくる」ものです。
たとえば、秋に入って涼しくなれば、「半袖で出かけるべきか長袖にすべきか」迷うことがありますよね。こんなとき、「直近1週間の気温と半袖・長袖で出かけた率のデータ」が記事になっていれば、他の人の行動が洋服を切り替える参考になるかもしれません。
僕が編集長を務める「しらべぇ」は、「しらべぇ」が調べるまで情報ですらなかったことを記事にするのがモットーです。最近の事例からご紹介すると、こんな記事を書きました。
メールやLINEの「♪」「w」はNG?「使うと恋愛対象外」と思う割合は…
メールやLINEでつい文章が堅くなってしまったとき、「。」の代わりに「♪」を使ったことがある人、男性にもいるでしょう。また「(笑)」の省略形である「w」をつける人も、ネットに親しんでいる人の中に少なくないはず。
700名弱の女性に調査した結果、「♪」をつける男性は2割の女性が、「w」だと3割が恋愛対象から外すそうです。こんなどーでもいいこと、「しらべぇ」が調べるまで誰も調査しようとしなかった、世の中になかった情報です。でもメールやLINEは、ほぼすべてのネットユーザーが使うため、ニュースサイト読者は知りたがる。
この記事は、およそ20日間で14万人ほどのユーザーに読まれました。モテるチャンスを失いたくないと思う男性は、このニュースを元にメールやLINEの文体を変えるかもしれません。人が知らない/知りたがる情報は、人間の行動や社会を変える可能性もあるのです。
書き手の「疑問」を読者と共有する
このように、身近にあるちょっとした疑問、もやもや感は、すべてニュースになる可能性があります。そのせいかわかりませんが、「しらべぇ」ライターには、専業主婦や学生、芸人さんなど、これまでニュース原稿を書いたことがない“しらべぇデビュー”の人も多くいます。
編集部がうまくトレーニングすることが必須ですが(「しらべぇ」では不定期で「ライター塾」という勉強会を実施)、誰しもにライターになるチャンスがあるのがWebメディアの世界です。
「気になることを調査してみた→意外なデータが上がってきた」という「しらべぇ」のタイトルや記事内容は、この疑問と驚きを読者と共有するようにつくっています。タイトルには「数字を入れる」「造語をつくる」などいくつかのコツがありますが、それ以上に、「書き手の疑問と驚き」という素直な気持ちを形にすることが大切です。
タカハシマコト(たかはし・まこと)
「しらべぇ」編集長・クリエイティブディレクター
1975年東京生まれ。2014年NEWSYを設立し、代表取締役に就任。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。カンヌライオンズシルバー、TCC審査委員長賞、ACCシルバーなどの広告賞を受賞。著書に『ツッコミュニケーション』(アスキー新書)など。
『編集会議』2015年秋号
9月16日発売 定価1300円
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特集「新時代に求められる“編集2.0”」
「良いものをつくれば売れる(読まれる)」という時代が終わり、読者・ユーザーに「どう届けるか」という“コミュニケーションを編集する力”が問われるなか、編集にはどのようなアップデートが求められているのか。編集を再定義しようとする考え方や取り組みを通じて、これからの編集のあり方について考える。
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