第9話の見所:リアリティを追求したらこうなった!
「リスクの神様」では、よく謝罪会見が描かれている。良い例、悪い例も含めて監修側からのチェックを行っている。大変なのは、実際にこの事件の設定の場合、どのような質問を社会部記者から聞かれるか、という視点で想定質問を作成し、それに対して回答を作成するという手順を踏んでいることだ。どの部分を実際の演出段階で使うかはその時にならないとわからないため、全体の膨大な想定質疑・回答を作成するという作業となる。
さらに、社長が行っている記者会見現場のシーンから危機対策室内で社長の会見をテレビで見ているシーンに移り、対策室でテレビ映像が流れながら対策室メンバー同士で語られるといった状況などが存在するが、台本では裏で流れているテレビ内の社長の質疑・回答シーンについては「オフコメ」といって詳細には記載されていない。このような「オフコメ」のコメントをフォローするのも助監督や監修者の役割のひとつになる。ドラマではこのようなシーンの切り替えが多く存在しているため、「オフコメ」のフォローはリアリティを追求すればするほど重要な意味を持ってくる。
さらに、一瞬写り込むボードや資料の数々、PC画面や新聞の切り抜きなど、危機対策の視点から一から作り出していることもあるので手が込んでいる。
特に、再発防止策などを社長が語るシーンでは、現実に実効性の高い、あらゆるステークホルダー(マスコミ、取引先、消費者、株主、従業員など)を納得させられるだけの内容を盛り込む必要があり、専門家としての知見が演出家から求められることも少なくない。
制作に関わる人たちは、10話のストーリーを生み出すために数百冊の参考資料を読破し、学び、あらゆるシーンで感性を研ぎすまして、危機的事態と対策に没頭している。
こうして、脚本家、プロデューサー、演出家、監修や多くの制作スタッフが技術と知恵と創作力を結集させて、『リスクの神様』は作られている。
子会社に対する親会社責任
第9話でひとつのテーマになっている親会社と子会社の支配関係について、米国法のもとで親会社の責任を考えてみる。この事例では、日本にある親会社と米国内にある子会社との関連で考察する。
日本企業の米国子会社で発生した不当雇用慣行事件を理由に、当該子会社が訴えられた場合、日本の親会社が同時に訴えられ賠償責任を問われる場合がある。
支店の場合と異なり、米国子会社の日本の親会社と別法人であるため、子会社に賠償責任が生じたとしても、ただちに親会社の賠償責任が発生するわけではない。しかし、 日本企業の米国子会社を相手取って訴訟を提起する場合、原告はより資力のある日本にある親会社もあわせて被告に指名して訴える例が多く、その場合親会社としては、たとえ最終的には別法人であることを理由に賠償責任を逃れたとしても、訴訟防御に多大な時間と費用を費やすことを余儀なくされる。
こうした訴訟において原告が親会社の責任を追及する手段の一つに、法人格否認の法理がある。証拠に照らして親会社と子会社が実質上一体であり不可分であることが証明されれば、子会社の法人としての独立性が否定され、子会社は親会社の一部だとする理論である。裁判所がこれを認めれば、子会社は支店と同じ扱いを受け、従って親会社の賠償責任が認められる場合がある。
過去の判例を見ると、法人格否認の有力な根拠となる事実には、次のようなものがある。
- 親会社子会社間で、経営陣が同一、または相当程度重複している。
- 親会社が子会社の経営、人事、契約等に関する決定直接行う、もしくは相当程度関与する。
- 親会社子会社間で、契約、帳簿、記録などが共通して用いられ、厳密に分けられていない。
- 子会社において株主総会、取締役会などの議事録が存在しない、もしくは不完全である。
- 子会社が債務超過に陥っている、または親会社が債務保証を行っている。
- 子会社が親会社と同一企業だと、一般に広く認知されている。
もちろん、このうちどれか一つだけで裁判所の結論が下されるわけではなく、総合的な判 断がなされる。しかし上記のような状況が多く存在すればするほど、子会社が親会社の一部とみなされ、子会社で発生した事件に対する親会社の賠償責任が認められる可能性は高いといえる。特に、中小の日本企業の在米子会社には、親会社からの独立性が低く、親会社の債務保証を受けているものが多い。親会社が米国での訴訟にさらされるリスクがより大きいといえる。
米国子会社で発生した過去の事件について、原告が親会社を訴える根拠としては、法人格否認法理のほかに、問題となった不適切な行為が親会社の直接の指示に基づいており、当該行為が親会社の行為そのものだとする理論がある。この場合原告としては、裁判所が米国子会社の法人格を否認するかどうかにかかわらず、親会社の責任を問えることになる。
ただし、原告は親会社に対して裁判所が直接(子会社の法人格を否認しなくても)対人 管轄権を有すること、また当該行為が親会社の特定の、または一般的な指示に基づいたものであることを証明しなければならず、この理論に基づいて親会社を訴えた場合、そ して裁判所がただちに訴えを棄却せず、管轄権などを巡る争いになった場合には防御 のため、親会社として多大な時間と費用を費やす必要が生じる。
なお米国子会社で発生した不適切な行為に関連して、本社の従業員が被告として訴訟の対象となり、賠償責任が発生するかどうかは、当該従業員が子会社の役員・従業員を兼任しているかどうか、当該従業員が子会社の人事雇用などを直接指導監督する立場にあるかどうか、年間を通じ子会社で勤務する時間が多いかなどによる。これら事実に関する証拠をもとに、当該従業員に対する裁判所の対人管轄権の有無がまず判断され、その上で賠償責任の有無が決定される。
親会社と子会社が別法人であることが認められた場合でも、親会社の役職員が積極的に子会社の経営に参画している場合には、当該親会社の役職員の責任が問われる可能性は十分想定される。