——今年の4月、箭内さんは福島県のクリエイティブディレクターに就任しました。自治体をクリエイティブディレクションするという、正式な役職は初めてですよね。昨年はNHK紅白歌合戦にも深く関わったり…。なんと言うか、最近の箭内さんのお仕事には「公共性」のようなものを強く感じます。
うーん、そうですかね(笑)。福島は故郷だし、紅白歌合戦は2011年に「猪苗代湖ズ」で出場させていただいたし、僕にとっては、ごく自然な恩返しのようなこと。とくに「公共性」を意識してのことではないんです。ただ、逆に、通常の仕事の中に、「公共性」を探しているっていうのはあるのかもしれません。
——通常の仕事に「公共性」?
もちろん、広告は企業のものなんだけど、そこには「つくり手のメッセージ」を入れないといけないと、僕は勝手に思っていて。「そんなのけしからん!」って言う人もいると思うけど。
ただし、そのメッセージは、クライアントの目指すベクトルと違う方角を指すものであったり、商品にとって必要のないものであってはいけないんです。だからいつも、クライアントと一緒に、伝えるべきメッセージを探します。
本来、すべての仕事、すべての商品は、人を、社会を、幸せにするためにあるはず。そのことは、その商品やブランドがこの世に生まれた理由でもある。そこが抜け落ちていたら、僕は広告がつくれません。そういう意味では、今の僕の仕事は、ほとんどが「公共性」を意識しているとも言えます。
——そう考えるようになった、きっかけはあったのですか?
うーん、きっかけは思い出せないけれど…。例えば、内田裕也さんと樹木希林さんに出演いただいた、ゼクシィ「Get Old with Me」のテレビCMですね。僕にとっては、とても「公共性」の高い仕事のひとつです。
見る人に「結婚ってなんだろう?」っていうことを問いかけるもので、「ゼクシィを今すぐ買いに行こう!」と呼びかける広告ではないわけです。東日本大震災の直後という時期的なものもあったかもしれませんが、「人がライフライン」なんだということを強く感じながら撮りました。
結果、全国のゼクシィの営業の方々に、改めてゼクシィへのモチベーションを持っていただけた仕事でもありました。
そういえば、昔、「商品広告と企業広告」とか、「プロダクトとイメージ」っていう分け方があったけれど、僕はやっぱり、そういう分け方じゃなくて、商品広告は企業広告であるべきだし、商品広告は同時に公共広告であるべきだ、と思うんです。
すごく歯の浮きそうな言葉で言うと、「広告は、誰かを元気にしたり、背中を押したり、広告自体が誰かを幸せにする存在であるべき」だと考えると、本当はすべての広告が「公共性」を強く持っているはず、と。