箭内さん!最近、“ソーシャルグッド”な仕事が増えていませんか?

——こちらから「公共性の高い仕事」と表現しておきながら、逆に質問するのですが、箭内さんにとって「公共性」とはどういうことでしょうか?

一瞬、「公共性」の反対にあるものとして「経済」が浮かびますが、「公共性」と「経済」は、本当は同時に両立されるべきものですよね。例えば、「ダイドーブレンド」のCMで僕が伝えたかったのは、誰も自ら進んで手を挙げない世の中で、腹を括って「自分がやる」と言える勇気の尊さです。

タワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE.」の、「音楽っていいね」というメッセージも、大きな「公共性」だと思っている。「今すぐタワーレコードに行こう!」と言っているわけではないから、広告としては、最短距離を行くコミュニケーションではないのかもしれない。商品をストレートに伝える広告と比べて到達速度が遅いと考える人もいるでしょう。

——結果的には、CMオンエアと合わせて発売した『ゼクシィ』はすごく売れたという話を聞きました。

そうですね。もちろん「売れること」は絶対に必要です。その商品によって、幸せになる人の数が増えるということですから。商品と広告の本懐ですね。

あと、重要なのはタイミングというか、その時代、その年に必要なことをやる、ということなんです。ゼクシィのCMも、2011年だったから、「Get Old with Me」が「公共性」を伴って機能したのだと思います。

あれが今年だったら、きっとあのような結果にはならない。震災後の不安の中、「家族」の尊さが言われたタイミングで。一人ひとりが、自分たちのことを見つめ直してみる、立ち止まって考えてみる、それが2011年という年でした。そうして、2012年にようやく前を向き、2013年に少しずつ歩き出す——世の中は、そういう階段をのぼっていくと感じていました。

——それで、2013年は「“プロポーズ”で一緒に日本を元気にしませんか」というCMになったのですね。この呼びかけに賛同した、30人のお笑い芸人が本気のプロポーズをするという…。世の中にとって、いま必要なメッセージを伝えていることが、「公共性の高い仕事」に見えたのかもしれません。

僕にとっては、「福島県のクリエイティブディレクター」も同じ。いま、福島県にとって、足りないことを補えればと思ったんです。福島の「いま」を発信するお手伝いができればと考えて、僕がとった手段が「福島県のクリエイティブディレクターへの就任」だったのです。僕が判断を間違えれば、福島県に逆に迷惑をかけてしまう、非常に難しい業務です。

広告には、いくつかの使命がある。商品やサービスの魅力を伝えるのはもちろん、不要な誤解を解くということもあるだろうし、困っている人を助けるっていうのもあるでしょう?僕らクリエイターの仕事は、「いま足りていないけれど、必要なもの」をつくり続けることだと思います。そのために、どんな手段が最も効果的かを考えると、CMの場合もあれば、映画だったり、音楽イベントだったり、楽曲だったり……その都度、最適な手段を選べばいいのかな、と思います。

次ページ 「箭内さんが昨年末の紅白歌合戦に」へ続く

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箭内 道彦
箭内 道彦

1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。東京藝術大学非常勤講師、青山学院大学非常勤講師、秋田公立美術大学客員教授、福島県クリエイティブディレクター、郡山市音楽文化アドバイザーなども務める。

箭内 道彦

1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。東京藝術大学非常勤講師、青山学院大学非常勤講師、秋田公立美術大学客員教授、福島県クリエイティブディレクター、郡山市音楽文化アドバイザーなども務める。

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