りんごを通して「気づきに気づく」
「“りんごの絵を描いてください” というと、赤い、丸いといったカタチを描く人がほとんどです。子どもの頃から何度も味わってきたはずのりんごに対する認識が乏しい」と話すのは、大阪芸術大学で教える三木健さん。
「私たちの記憶にあるりんごは、ほとんどの人が漠然と見続けてきたりんごの表れです。いわゆる見ていると見えているの違い。ソクラテスの“ 無知の知”にあるようにいかに知らないかを自覚するのが重要なんです。そこに気づきが生まれます」。
この「気づきに気づく」ことをコンセプトに、2012 年に三木さんが開発したのが基礎実習の「APPLE」だ。同大学1年生を対象とし「りんご」をモチーフに半年間で15のプログラムを実践する。
「暮らしの中には、たくさんのデザインがあります。昨今ではカタチをつくり出す前の仕組みづくりもデザインと捉えるようになってきました。造形はもちろん、デザイン領域を横断的に捉えながらデザインの本質を見抜く洞察力を磨くことの重要性を感じています」。
そこで三木さんが考えたのは、自ら体験して学ぶことで「もっと知りたい。どうして、なぜ?」という問いを深堀し、自ら「学び方を学ぶ」ことの大切さが実感できるカリキュラム。ベースにあるのは、考え方や作り方の根源を探る「デザイン・フィロソフィ」である。
「APPLE」は、りんごを手に自己紹介する「人間観察」から始まる。次に外周や皮の面積を測り「数値を身体化する観察」。その後、りんごの色を採集し「自然の摂理に学ぶ」。
つまようじで点描画を描き「不自由さの中に潜む真意」に気づく、りんごから発想するキーワードをシェアすることで「セレンディピティ(偶然の幸運に出会う能力)を磨く」など、デザインにとどまらない多彩なプログラムが用意されている。これらを通して、学生たちは考え方、作り方、伝え方をデザインする。
さらには思考を立体的に組み立てていくことを学ぶ。最終回には、一緒に学んだ人たちのデザインなど全てのプロセスを記録したファイル「りんごの教科書」が完成する。「学生達はこのファイルを通して授業を振り返り、その後も発想の起点にしているようです」。
「APPLE」は授業から講演、そして書籍化へ。さらには展覧会という形でオープンエデュケーションを実践してきた。最近では、社員の能力開発やコミュニティ活動に活用したいという声が多くの企業からも寄せられている。
APPLEの講演がYouTubeで公開されています。
編集協力/大阪芸術大学