自分の価値を上げるのは、自分の仕事しかない。
長谷川:独立してみて、どうでしたか?
渡辺:フリーになりたてのときは、正直「これ、俺じゃなくてもいいじゃん」という仕事がたくさんありました。人に話せないような嫌なこともいっぱいありました。強烈に値切られたり、アサインされたのに「やっぱり別の人にお願いすることにします」と言われたり。
でも、自分から営業は一切しませんでした。「仕事をください」と言って「じゃあ、あげる」となったら、その瞬間に発注と受注の関係ができあがってしまう。それよりも「ぜひ潤平さんにお願いします!」と待望されて仕事がしたいと思ったんです。じゃあ、そうなるためにはどうしたらいいのかなって。それはやっぱり、自分の価値を上げるのは自分の仕事しかないなと気づいたんです。我慢して、一つひとつの仕事をきちんと丁寧に仕上げて、それがちゃんと目立つようにする。そういうことを地道に続けてきました。最近やっと、仕事が自分を選んでくれるようになった気がします。ちゃんと理由があって頼まれたんだな、と感じられる仕事がくるようになりました。
大物にならないように、気をつける。
長谷川:独立してから気をつけていることはありますか?
渡辺:気をつけているのは、存在として重たくならないこと。フリーになって結果が出ると、いろいろな方が自分のことを知ってくれて、会社に勤めていたときよりも大事に扱われるんです。それで、僕も勘違いしてしまう瞬間があったんですね。でもよく考えれば、どうして自分が呼ばれたのかというと、やっぱり呼びやすいからなんですよね。こいつがいると空気が変わるかも、と期待されていたり。それなのに重たい顔をして行ったらよくないですよね。いくつになっても怒られる感じがいい。そういう意味で、決して大物にならないように気をつけています(笑)。
長谷川:僕にとって、潤平さんはすごく尊敬している先輩ですが、確かにそこまで緊張せずに話せます。
渡辺:僕は趣味でバスケットボールをやっていて、チームにも入っているんだけど、そこは自分より若い人たちばかりで、いつも「潤平さん、全然ダメっすよ」って怒られまくってます。仕事の話も全然しないし、すごく気楽で楽しいんですよね。
長谷川:広告業界の人とはあまり会わないんですか?
渡辺:実は僕、広告の集まりに行くのを極力控えているんです。なんだかすごく気疲れしてしまうし、噂もよくない方向にひとり歩きするし。それより、親しい人や会いたい人に会ってゆっくり過ごした方が、安心できるからいいですね。
長谷川:「会いたい人」というのはどんな人ですか?
渡辺:自分に「間違ってるぞ」と教えてくれる人。そういう存在は大きいですね。