先生!PR会社って「ウラ」で何をやってるんですか?
PR会社というものが具体的にどういう活動を行っているのか。広告会社の広告制作の様子が比較的イメージしやすいのに比べて、PR会社の業務は見えない部分も多く、誤解を招いていることが多いのではないかと危惧しています(実際の広告代理店の仕事が非常には「奥深い」ことは承知のうえで、学生にも分かるよう、あえてこの場ではこのように記させていただきます)。
企業の広報部門や企業から委託を受けたPR会社は、原則、企業が公式リリースを発行したあと、メディアが報道・掲載するまでの間に有形無形の様々な「関わり方」をします。このメディアと企業との間の介在の「しかた」に「境界線」があると考えます。
結論から申し上げます。「編集権の有無」「媒体費(インセンティブ)の存在」「関係性の明示の有無」「偽装の意図」が、「ステマ」と「パブリシティ(PR活動の一環)」との境界線です。
「パブリシティ活動」という言葉は聞いたことがある方が多いと思います。その一環として、さらに細かく「メディアキャラバン」と呼ばれる活動があります。記事・ニュースとしての掲載に結びつくことを目指したメディア訪問活動のことで、古くからPR会社が行っている広報実務です。
PR会社が代行する場合、実際にどのくらいの記事が掲載に至るかどうかは別にして通常は企業から「活動費」を得ます。結果として掲載に至らなかった場合には活動費はいただかないという成果報酬型の場合もあります。
大切なのは、この活動においては、メディアに対していかなる「媒体(広告)費」も支払わないということです。この点がステマやペイドパブとは決定的に異なります。
実際、掲載に至ることはなかなか難しい場合も多く、PR会社では、この活動による成果(掲載の有無)を保証はしません。PR会社が一定期間(通常、最短でも数カ月)行う「掲載のための活動費(主にPR会社のスタッフの人件費)」は、記事(ニュース)露出の対価としてメディアに対して支払われるインセンティブ(媒体費)とはまったく性質が異なります。
先生!メディアキャラバンは何を「キャラバン」するのですか?
この「メディアキャラバン」の具体的な活動内容に入ります。
活動内容の詳細は、PR会社やPR担当者によっても異なります。一般的には、まず事前に用意されたプレスリリースなどを元に、メディアの編集担当者に記事掲載を直接持ち込んで提案するための資料(プレスキット)を作ります。メディアのジャンルごと、あるいは媒体ごとに何通りか制作します。
例えば…テレビ、ネット、一般紙とでは、持ち込むプレスキットの内容を変えます。テレビ番組では「絵(映像)」になる要素を優先します。新聞は「社会性」を重視します。ネットメディアの場合は一概には言えませんが「拡散力」などが重視されます。雑誌では「専門性」や既存の読者との「親和性」などが重視されます。
元となるプレスリリースは同じでも、持ち込む「プレスキット」は訪問先ごとに「切り口」を変えた「企画」を考え提案します。こうした活動は一見簡単そうに見えて、非常に専門的な作業です。そして本当に手間がかかります。
先生!クライアントとPR会社の担当者とは事前に何を相談するのですか?
PR会社の担当者は、事前にクライアント企業の方と何度か会って、記事掲載の提案のためにアプローチを行う媒体のリスト(アタックリスト)などについて相談します。PR会社(あるいは担当者)によって強い媒体、弱い媒体など特徴があります。手持ち、またはメールなどで、メディアの編集や配信担当者宛に、記事の掲載やネット配信が実現するための提案を行います。
私のこれまでの経験ですと、新聞以外の紙媒体(月刊誌など)の場合は最低でも掲載まで2~3カ月かかります。ネットメディアの場合も最短で1カ月弱は見た方がいいです。メディアの数は今では無数にありますが、私の事務所がこまめに対応できるのは人的リソースの上限もあるのでせいぜい30媒体くらいが限界です。
例えばですが、新聞社や雑誌社のサイトで記事が掲載され、その結果、Yahoo!をはじめとしたポータルサイトに記事が転載されます。
私がPRプロデューサーを務めるLIFEVIDEO社のインタビュー記事がR25に掲載されて、Yahoo!に転載された例です。
私が広報部長を務める東北芸術工科大学に関する、宣伝会議でのコラムがYahoo!に転載された例です。
プレスキットをメディアに手渡し提案した結果、直接インタビュー取材を受けることになったり、写真の提供を求められたりすることがあります。PR会社のスタッフは取材に立ち会い、取材の前後をフォローします。PR会社がクライアント企業に請求する「掲載のための活動費」には、こうした諸費用が含まれています。
クライアントには、こうした広報業務について詳しい方と、あまり詳しくない方もいます。中には、パブリシティ活動を開始するよりも前に「事前に掲載媒体と掲載日を教えてくれないと困る」と言ってPR会社の担当者が困ってしまう場合もあります。もしもこの質問に担当者が即答できたならば、それは「パブリシティ」ではありません。
いずれにしろ、しっかりと時間をかけて、PR会社は活動内容を事前に説明した上で、活動期間と掲載を働きかけるメディア(アタックリスト)を確定します。そのネタの話題性や掲載の難しさに応じて、掲載に至るまでの活動期間も変わります。
先生!PR会社って何だか誤解されてません?
こうした広報部やPR会社が日常行っている「パブリシティ活動(特にメディアキャラバン)」は、外部からは見えにくいため誤解が生じやすいのです。中にはまるでスパイもどきの暗躍をウラでしているという印象を持つ方もいるようですが、実際はまったくそんな怪しい活動ではありません。
ここまで細かく実務を解説する機会はこれまでありませんでしたが、こうやって説明すると、本来のパブリシティ活動において、企業とメディアとの間に金銭(インセンティブ)のやりとりが生じにくいことが、直感的にお分かりいただけるのではないかと思います。金銭のやりとりで露出に関する話が済んでしまうならば、最初からこんな手間ひまかけた資料を持ち込んで企画書のように提案をさせてもらうようなことはしません。