先生!ステマはどうすればなくなりますか?
私が今メディア企業でニュース編集の担当者だったとします。自社が発信するニュース記事からステマをなくすためには、提供するコンテンツはすべて自社で取材から編集(制作)までを行います。マネジメントチームが編集権を持ち、直接的に記事内容の品質と作成行程を管理・監督します。その上で自社コンテンツ内での他媒体からの記事などの引用含め、二次利用をすべて禁止します。以上は組織の構造上の問題として、です。
その上で社員(関連スタッフを含む広義の)教育を徹底します。これは個人のモラルの問題として、です。
逆に言いますと、自社で記事などのコンテンツ制作を一切行わず、他社から何らかの形で提供され、記事の品質管理を他社に依存している場合は、自社とその他社との関係においてルールを厳格にするなどしてステマを防ぐことはできるかもしれません。
しかし、コンテンツを他社が提供する以上、他社の記者が引用や二次利用した情報の中にまで本当に「ステマ」が介在しているかいないかの判断をすることは、現実的にはまずムリではないでしょうか。まして、他社の社員を含む外注スタッフの「ステマ」に関するモラルを100%コントロールすることはできません。これはオーナー・パティシエが自ら経営し、素材から調理方まで一貫して自ら吟味し指示監督したう上で店舗に立つケーキ屋さんとコンビニエンスストアとのビジネスモデルとの違いと言えば分かりやすいかもしれません。
もちろん非常に重要で大切なことなのですが、大手メディア企業の編集担当社員から、フリーランス記者や在宅ライターなどをも含む「業界全体のモラルと意識の向上」という「努力目標」としかいいようのない答えとなってしまいます。
私はこれまで、20年に以上にわたり、企業の広報担当者、メディアの「中の人」の側、PR会社の立場と、それぞれ3つの異なる立場からパブリシティ(PRの一環)の現場を経験してきました。この仕事に関わる方たちの多くが、心の中で思っていながら、なかなか言いにくい「本音」があると思っています。
それはPR活動の本質は、究極的にはその情報を扱う「人と人」との関係性にあるということです。「人と人」とがつながる(つなげる)仕事です。決して「金銭」の多寡が業務の本質ではありません。
多くが「オーダーメイド」の活動ですので、メディアがいくら「デジタル」になったとしても、現場では自分の思い通りにいかない「アナログ」なことがほとんどなのです。極めてアナログで非論理的で、簡単にはつかみにくい「人と人」との関係性や、個人的な「基準(思い)」などが、物事の決定に大きく影響して、個々の業務内容や成果に大きく反映されます。
これは非常に面白くもありますが、時に非常にややこしいことが起こります。メディアに関わる仕事ですので一見派手な仕事に見えますが、パブリシティ活動の実態はとても地味でコツコツと手間のかかる作業と調整の積み重ねです。
先生!PRの仕事って、何がそんなに面白いんですか?
私が考えるPRの仕事の醍醐味については、以前に『広報会議』の企画で語らせていただきました。こちらをご参考いただければと思います。
広報会議デジタルマガジン 2015年5月号
広報の仕事は、こんなに面白い!
PR関係の若い担当者の方たちや、これからPRの仕事を目指す学生の方たちには、今の私が想像できないような、様々な苦労があるかもしれませんが、「胆力」を鍛えつつ、これからの新しい業界で「苦労」を楽しんで臨んでもらえればと思っています。
「先生!ステマって何ですか?」「ステマはどうすればなくなりますか?」という学生からの素朴な質問が、ずいぶんとややこしい話になってしまいました。