ソーシャルメディアで変わるファッションの価値
京井:ファッションって、第一印象をつくるという観点で重要なコミュニケーションツールだと思うんです。それが、ソーシャルメディアが浸透すると、会う前にどんな人か知られていることになる。そうなると、もうファッションにはそこまで気を使わなくなるかもしれない。僕がまさにそうです(笑)。ソーシャルメディアはファッションにどう影響していくんでしょう?
ムラカミ:人がファッションに求めるのは、ひとつは機能が満たされていること。あとは必要な情報価値を持っているか、大きくその2つでしょう。白いプラダのTシャツを着ていれば、その人は3万円のTシャツが着られる社会的立場の人だと伝わります。でも、ソーシャルメディアに載せる写真では、500円のTシャツでもぱっと見では変わらない。そういう単純な価値崩壊が起こっている中で、本質的なファッションの価値って何なんだということが、あちこちで考え直されているのが今だと思います。
若林:マーケティングの観点で、1人の個人が分割不可能な最小単位だったのって、20世紀までだったと思うんです。その頃は自分のアイデンティティーを服で体現して、人々の中で存在を確立させることが大きな命題だった。ところがネットの時代になって、個人は一貫性を問われなくなりました。Amazonの買い物履歴に一貫性なんてない。個人の中に多様性があることが認められたんです。WIREDでは、Webサイトで記事をカテゴリー分けすることをやめました。なぜなら、アップルの記事は「ビジネス」「テクノロジー」「カルチャー」のどこにでも入る、というようにカテゴライズが失効してきたから。僕らがすべきなのは、その記事に興味がある人が次に何を興味を示すかを考えることです。iPhoneの記事を読んでいたからスマートフォンに興味があるとは限らない。iPhone好きの人はギャラクシーには興味がないけど、自転車には興味があるかもしれない。その裏にあるコンテクストを捕まえたいんです。ある人にその話をしたら「若林くん、それはね、風を感じるということなんだよ」と(笑)。iPhoneと自転車には同じ風が吹いている。マーケットはめちゃくちゃ複雑です。しかも、「気持ちのいい風が好きな人」という人がいるわけじゃない。気持ちいい風を感じたい瞬間が人にはある、というところに向けてコンテンツを届けていかなければいけない。個人ではなく、時間をターゲットにするということです。そこでは、風を感じるストーリーみたいなことがすごく重要になります。
ムラカミ:本来、ファッションってそういうものです。言葉で説明できないようなフィーリングを、素材だったり、デザインだったり、複合的なファクターが混在した一つの作品としてつくり上げるのがファッションの魅力です。さらに、その服の背景ではどんな音楽が鳴っているのか、どんな空間にあるのかという複雑な要因で成り立つカルチャーだからこそ面白いんです。けれど、ミレニアル以降という話でいえば、今はそれがどんどん情報化=タグ化している。例えば、一つのスニーカーに「カニエ・ウェスト」「ナイキ」「白い」「ハイソール」と次々とタグがついていき、その数が多いほど評価が高くなる。検索機能から生まれた、すごくフィジカルな評価軸だと思います。そのことを意識してものをつくらなければならないし、けれどリアルな感覚もやっぱり大事。その両方を行ったり来たりして考えていかないといけません。
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若林恵(わかばやし・けい)
1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。大学卒業後、出版社平凡社に入社。『月刊 太陽』の編集部スタッフとして、日本の伝統文化から料理、建築、デザイン、文学などカルチャー全般に関わる記事の編集に携わる。2000年にフリー編集者として独立し、以後、雑誌、フリーペーパー、企業広報誌の編集制作などを行ってきたほか、展覧会の図録や書籍の編集も数多く手掛ける。また、音楽ジャーナリストとしてフリージャズからKPOPまで、広範なジャンルの音楽記事を手掛けるほか、音楽レーベルのコンサルティングなども。2011年から現職。趣味はBOOKOFFでCDを買うこと。
北川竜也(きたがわ・たつや)
三越伊勢丹ホールディングス秘書室 特命担当 部長
大学卒業後、国連の活動を支援するNGOで国際法廷の設立などのプロジェクトにアシスタントとして従事。日本帰国後、企業風土改革を行うスコラ・コンサルタントで主に大企業の組織活性化に携わった後、創業間もないクオンタムリープに参画。大企業の新事業創出支援やベンチャー企業支援の場作りなどの事業を担当。クオンタムリープを退社後、アレックスの創業に参画。会社の運営と併せ、Made in Japan / Made by Japaneseのハイクオリティーな商品を世界に向けて紹介・販売するEコマース事業の立ち上げと運営を行う。その後、三越伊勢丹ホールディングスに入社。現在に至る。
ムラカミカイエ
SIMONE INC. 代表/クリエイティブディレクター
三宅デザイン事務所を経て、2003年、ファッションとビューティー分野に特化したブランディングエージェンシー「SIMONE INC.」設立。 国内外多数の企業のデジタル施策を軸としたブランディング、コンサルティング、広告キャンペーンなどを手掛ける。
http://www.ilovesimone.com/
京井良彦(きょうい・よしひこ)
電通/ビジネス・クリエーション・センター コミュニケーション・ディレクター
1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。 営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)など。