店頭体験はテクノロジーでどう更新されるのか
京井:会場ではデジタルの試着ミラーも紹介されていました。自動録画された自分の後ろ姿を見られたり、着替えずに服の色のバリエーションをミラー上でシミュレーションできるというものです。
北川:店頭ですぐにお客さまに体験してもらえて、未来を感じてもらえる。展示ブースには、他にもiPhoneで自分が欲しいアイテムのある場所まで店内で誘導してくれるシステムや、ロボットによる接客デモなどがありました。デジタルによって、一番分かりやすく更新されるのは店頭体験でしょうね。
ムラカミ:店頭は重要かつ難しい分野ですよね。三越伊勢丹のすごさは、世界ナンバーワンを誇る坪効率でしょう。その売り上げを支えている接客のスキルをテクノロジーで代替できるのか。挑戦しがいもあり、非常に難しいところです。
北川:おっしゃる通りです。大事なのは、やってみて失敗することだと思っています。アナログの価値をデジタルに代替させるのは現時点では不可能です。ただ、補完はできると思う。けれど、何をどう補完できるのかがまだ分からない。机上で考えても絶対に答えは出ないから、経験を積み重ねて答えを出した人が勝つと思います。目の前にある売り上げを上げている店舗も維持しながら新しいことにも取り組む、二律背反で戦っていかなければいけません。
京井:今日皆さんのお話を聞いて、広告会社はこれまで全然ファッションに投資してこなかったなと思いました。ファッションはコミュニケーションのツールなのだから、その本質的なインサイトに我々が無関心ではいけないですね。
若林:広告代理店の未来は「広告」が消えて「代理店」だけが残るかもしれない、と言っていた方がいました。今まで培われた何かは生きていくけど、広告というアウトプットにはならないかもしれないと。出版もファッションも同じです。本質的に自分たちが何の価値を体現しているのか? そういう発想は今後あらゆるところで必要になるでしょう。
北川:「百貨店」と聞くと古い業種、業態であるため、斜陽産業のようなイメージがついて回ってしまいますが、例えば「リアルコンテンツ提供企業です」と言うと急に別の見え方になったりする。 言葉の置き方ってすごく大事だと感じています。電通はまさに、そういうところにかけてきた会社でしょう。最近「小売り」や「流通」に加えて、これからの価値を表現するいい言葉はないかと真剣に考えています。絶賛募集していますので、よろしくお願いします。
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若林恵(わかばやし・けい)
1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。大学卒業後、出版社平凡社に入社。『月刊 太陽』の編集部スタッフとして、日本の伝統文化から料理、建築、デザイン、文学などカルチャー全般に関わる記事の編集に携わる。2000年にフリー編集者として独立し、以後、雑誌、フリーペーパー、企業広報誌の編集制作などを行ってきたほか、展覧会の図録や書籍の編集も数多く手掛ける。また、音楽ジャーナリストとしてフリージャズからKPOPまで、広範なジャンルの音楽記事を手掛けるほか、音楽レーベルのコンサルティングなども。2011年から現職。趣味はBOOKOFFでCDを買うこと。
北川竜也(きたがわ・たつや)
三越伊勢丹ホールディングス秘書室 特命担当 部長
大学卒業後、国連の活動を支援するNGOで国際法廷の設立などのプロジェクトにアシスタントとして従事。日本帰国後、企業風土改革を行うスコラ・コンサルタントで主に大企業の組織活性化に携わった後、創業間もないクオンタムリープに参画。大企業の新事業創出支援やベンチャー企業支援の場作りなどの事業を担当。クオンタムリープを退社後、アレックスの創業に参画。会社の運営と併せ、Made in Japan / Made by Japaneseのハイクオリティーな商品を世界に向けて紹介・販売するEコマース事業の立ち上げと運営を行う。その後、三越伊勢丹ホールディングスに入社。現在に至る。
ムラカミカイエ
SIMONE INC. 代表/クリエイティブディレクター
三宅デザイン事務所を経て、2003年、ファッションとビューティー分野に特化したブランディングエージェンシー「SIMONE INC.」設立。 国内外多数の企業のデジタル施策を軸としたブランディング、コンサルティング、広告キャンペーンなどを手掛ける。
http://www.ilovesimone.com/