VOL.1「クリエイティブの視点 VOL.01—三木健 LAB Miki Ken Lab」はこちら
イラストをもっと身近なものに
「僕の絵はよく“ 懐かしい” や” 新しい”と言われますが、実は“ 普通” で、身近にあるものを描いているだけなんです」と、中村佑介さんは話す。
ゲーム会社を目指し、大阪芸術大学に通っていた中村さんが、現在のスタイルで絵を描くようになったのは就職活動の時期。当時、美少女ゲームが人気で、多くの学生は現実離れした目と胸の大きな少女像を描いていた。そのことに違和感を覚えた中村さんは、日本人の平均的な女の子を描きたいと思うようになった。
「絵が好きな人は派手なタイプは少ないのに、絵だけはやたらと派手で本人とのギャップがある。それは自己否定に繋がってしまう。だから“ あるがままの日本を絵で表現したい” と考えるようになりました」。
当時の日本のイラストレーションでは、そのようなタイプの絵はめずらしかったからこそ、「こんな女の子が主人公の絵が、1つくらいあった方が優しいと思ったんです」。
この気づきに始まり、それ以降中村さんは自身の表現や手法のみならず、イラストレーションを取り巻く環境、そして美術教育にまで常に思いを巡らせている。
「コンビニに漫画雑誌やゴルフ雑誌はありますが、イラスト雑誌は置いていませんよね?漫画と違い、“ イラストは絵を描く人以外には興味がない” というのが日本の現状」。
かつて手塚治虫さんが漫画をエンターテインメントのひとつとして確立したように、イラストもそういう存在になるべき。僕らがその地位を確立していかなくてはならない——。中村さんの活動の根底には、そのことに対する思いがあり、それは自身にとって“ 使命” といえるものにもなっている。
各地での講演会やSNSなどを通して、自らの考えや手法を積極的に発信している。若い人に向けて話すときは特に、“ 感性”などの曖昧な話はせず、「こうすれば絵が一般の人に受け入れられ、きちんと稼ぐことができて仕事になる」という現実的な話をする。
「日本は残念ながら美術教育が遅れており、ほとんどの絵の好きな子が親や先生から“ 仕事にはならない” と言われ、あきらめてゆく現実があります。僕が実践していることを紹介することで、こうした環境を少しでも改善していければ」と話す。
大阪を拠点とするのも、東京以外でも仕事ができることを若い人たちに示したいから。作品集9万5000部のヒットは絵の魅力はもちろんのこと、中村さんのこうした考えがきちんと伝わっていることの証ともいえるだろう。
編集協力/大阪芸術大学