「リアル脱出ゲーム」の加藤さんが「魔法を手に入れた」と感じた瞬間(ゲスト:加藤隆生さん)【後編】

紙とペンさえあれば実現できる魔法のように柔軟なコンテンツ

権八:リアル脱出ゲームはおいくらぐらいなんですか? イベントによって違うんですか?

加藤:だいたい3千円前後です。子ども料金を設定している公演と、設定してない公演があるんですけど、学生料金もあったり、なかったりで。

権八:面白そうなコンテンツが目白押しですね。スクラップさんのサイトをぜひ皆さんに見てほしいと思います。ターゲットはこの辺りの層を狙っているというのはあるんですか?世代とか。

加藤:運営サイドのイベンターさんからは「こういう層を狙ってください」みたいな空気感は出ますが、つくるときにはなるべくそこは考えないようにします。ただ、頭に入っているから、知らないうちにそこに当てているかもしれないけど、全世代、男女問わずあまねく楽しめるようなものをつくるというのは前提にはありますね。

権八:そうおっしゃるだろうなと思いました。そういう雰囲気がありますよね。自分が面白いと思って、みんなが面白いと思ってくれそうなところへ出すという感じがいいなぁって。

加藤:そうですね。僕らの場合は制作に何億かかるわけじゃないから、とりあえず一回やってみよっかみたいにパッとできる。ダメ元でやるみたいなこともあって。これは流石に外れるよねとか。でも、外れることも大事だから、これは外しに行こうといって出したやつが当たることもある。そうやって「なんでだろう?」と経験を会社に貯めるときもあります。

権八:具体的なイメージが湧かないんですけど、東京ドームでやると言ったらすごく大きいじゃないですか。でも、道玄坂何とか秘密基地といった小さな規模のものもあって。それぞれ、どういう規模が集まったら成功とか、それこそ1個1個のイベントにかけるお金とか、コストとか、そういうのも全然イメージできないんですけど、何かあるんですか?

加藤:僕らはお金なんて全然なかったし、何らかの資本をどこかから入れてもらったということもなかったんですね。でも、1つよく覚えているのが2011年に東京ドームで初めて僕らが公演したときに「あるドームからの脱出」というタイトルで告知したときに1万5千枚ぐらいのチケットがパッと一瞬で売り切れたんですね。

中村:それはすごい。

加藤:ドームでやるということが面白くて。そのときに僕らがやったことは1万5千人のお客さんに紙を1枚ずつパーッと渡して、東京ドームにA0サイズぐらいのパネルを15枚ぐらいペタペタと貼って、「さぁどうぞ遊んでください」と言ったんです。僕が司会で出ていって、1時間でやるというのでものすごい熱狂が巻き起こって終わったんですよ。そのときに僕らは既にあるものに、ほんの少し手を加えるだけで物語をつくる力を今手にしたんだ、魔法を手にしたと、そのときに思って。

中村:確かに、そう思いますよね。

加藤:そのときは東京ドームさんとの共催で、東京ドームさんから「打ち上げに行きましょう。撤収が終わったら声をかけてください」と言われて。「10分後に行きます!」と答えたら、「それは東京ドームの撤収記録です」って。

一同:

中村:本当に手渡した紙とA0パネルだけなんですね。

加藤:それでも成り立ちます。もちろん、それが最低ライン。もちろん、今はもっと映像や装飾に時間とお金をかけたりして、少しでもお客さんが物語の中に埋没できるような装置にお金をかけようとしているけど、僕はそこが本質ではないと思っています。

あったほうがいいけど、なくてもいいもの。だから、本質的には紙とペンがあれば、今この場所にパパパッと仕掛けて、この場所でも物語が仕掛けられるぐらい、僕はすごく柔軟なコンテンツだと思ってます。

権八:リアル脱出ゲームって、テレビ番組に参加しているような、そういう楽しさみたいなものをすごく感じるんですよね。だから、ドームでイベントをやられたと聞いてパッと思い出したのは高校生クイズ。それに近いノリなのかなと思ったんですけど、少し意識されましたか?

加藤:そうですね。なんだろうな。心が弱ってるときにテレビを見ると、ブラウン管を隔てて、向こう側に天国があり、こちらが地獄である、みたいな。

一同:

権八:どういうことですか!?

加藤:向こうでは美男美女がきらびやかな場所で楽しそうに歌ったり、踊ったり、何かを演じたり。まさに物語の向こう側なわけですよ。ところが、ふとこちら側を見てみると、ヨレヨレの服を着たボサボサの俺がいる。テレビの中に入るためにはたくさんの才能だったり、努力や運が必要なんだけど、それをすごくカジュアルに体験できればいいのにという気持ちはどこかにずっとあったと思いますね。

もっと言うと、テレビに対する憎しみみたいなものがあって(笑)。フラッと男前に生まれてきただけでそんな幸せそうな顔をしているお前たちを、俺は一生許さんって。

一同:爆笑

加藤:そういうのは30代半ばぐらいまでは持ち続けていました(笑)。暗い闇ですね。それは僕の制作のマグマ、源泉ですね。

次ページ 「100億あればインタラクティブなディズニーランドのような空間を創りたい」へ続く

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