今は手法をオープンにして「共創」する時代
井口:PRの担当者って「黒子」というか、前に出ることを遠慮したり、自分たちの手法をオープンにしたくないと思うような性質の人がまだまだ多いように感じていて、企業によっては、エントリーに後ろ向きの担当者もいるようです。
冨岡:最近では、PRの重要性がずいぶん認知されるようになってきたので、自社事例としてアピールすることそのものが、コーポレート・ブランディングにつながることも十分にあります。それに、これからの時代はクローズドにしておくよりも、いかにオープンにするか、ということのほうが重要になると思います。共に創っていく、つまり「共創」の姿勢でやっていくことが肝になると思うんですよね。
ですから手法も、クローズドにして自社のやり方だけに留まっているよりは、オープンにしたほうが、次の新しい一手が生まれると思うんです。今は、いろんなものと掛け合わせることで、より面白いものが生まれる時代だと思います。PRアワードへのエントリーも、そういう場の一つとして捉えていただければうれしいですね。
井口:エントリーに出すことで、いい効能というか、いろんな響き合いが生まれる可能性は十分あります。もはや、PRも黒子の時代じゃないというわけですね。
冨岡:昔、広報の仕事は、「守る広報」がメインの時代がありました。来た取材は対応するけれども自分から積極的には出さず、メインはリスク管理で、何かあった時にはワンボイスで対応する、みたいなことです。今はそれが、だんだん「攻める広報」にシフトしてきたと思います。外に自社の情報を出していくことを戦略的に考えよう、という時代です。そうすると、企業がどんなストーリーを持っているのか、という「ストーリーテリング」の能力が大切になりますよね。
ですから今は「攻める広報」、さらには「創る広報」というマインドが必要かな、と。「創る」というと、誤解を招くかもしれないのですが、企業の等身大の中から、より魅力的なストーリーを紡ぎ出してお伝えするという意味で、「創る」と言っています。オープンでフェアな姿勢を基軸に、守るところは守る、語るところは語る。そのメリハリをきちんと意識しながら、広報が会社の顔にならなければ会社自体の元気がなくなってしまいますよね。
井口:対社会だけでなく、社員にとっても、広報・PRはカギになりますしね。
冨岡:そうですね。外からどう見られているかということをフィードバックされることは、実はインターナルコミュニケーションにとても効果的です。そういう意味では、広報は、外に対する発信はもちろん、それをミラー効果を介して中に持ち帰ってくること、そして、会社が外からどう思われているかということを広聴すること、この3点をバランスよく備えていく戦略セクションといえますね。
ですから、もう広報・PRは、裏方に徹しているだけの時代ではありません。広報機能は変わりつつあり、より戦略的機能を持つことが望まれます。この流れを捉えて、広報の人もマインドチェンジをしていく必要があるでしょうね。どんな仕事をしているか、きちんと伝えることが企業のブランディングにもなり、よいコミュニケーションにもなるという時代になってきているかなと思います。
井口:そのためにも、PRアワードに応募して、自社の仕事や魅力を共有しよう、伝えよう、ということですね。
冨岡:そのとおりです(笑)。きっとプロジェクトをやっている最中は、とても具体的な近距離の目標を達成することに一生懸命で、その仕事がどういう意味を持っているのか、どんな影響をもたらしたのか、というところまで考えが回ってないかもしれませんよね。ですからエントリーを機に、プロジェクトを振り返ってみて、その意義を再定義したり、再議論していただきたいですね。
井口:自分の仕事、自社の仕事を再定義することで、次の新しい一手が見つかりますからね。ぜひPRアワードを活用してほしいですね。
冨岡:はい、そしてPRアワードが、たくさんの魅力的な仕事や知恵のアーカイブになっていくといいなと思っています。
(聞き手:伊澤佑美)
冨岡洋子(とみおか・ようこ))
NTTデータスマートソーシング 取締役執行役員 経営企画本部長
1989年 NTTデータ入社。海外事業、企業広告・宣伝、人材・組織開発などを経て2012年7月から3年間、同社広報部長を務める。2015年7月から現職。広報部門経歴は通算15年を数え、広報、宣伝、社内広報、WEB、グローバルブランディングなど、企業コミュニケーション活動全般の経験を有する。2014年6月から公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会理事、顕彰委員会 委員長。