組織では、仕事の能力より「人気」が大事
長谷川:会社に所属しているときと、一人になったときで、仕事の受け方も全然違うと思うのですが、お二人の場合、仕事はどこから、どんなふうに来るんですか?
三井:私の場合は、社内の誰かからですね。同じ部署のクリエイティブスタッフや担当営業、戦略を考えるプランナーなどから声をかけてもらいます。あとは、とても光栄なことにTCCのコピー年鑑や雑誌に載っている私の制作物を見てご連絡をいただくことも時々あります。
福里:組織にいると、仕事の能力以上に“人間”が見られるんですよね。頼まれる相手とは日常的に近い距離で仕事をしているわけだから、やっぱり「人対人」なんです。だから人気がある人に仕事が集中するし、人気のない人には仕事が来ないんですよね。
僕がいた電通は、クリエイティブ局だけで800人いるような巨大組織でした。そこには、何かよく分からない川の流れがあるんですよ。そして、なぜかその流れに乗れる人と乗れない人がいる。僕は流れに乗れずに、よどみの中にぷかぷか浮いている状態だったんです。
長谷川:独立してから、その状況は変わりましたか?
福里:僕の場合は、独立してからのほうが仕事が来るようになりました。独立すると、一緒に仕事をする相手はそれぞれ職能を持って集まる人たちなので、ぼくの人間性よりも仕事の内容を見てくれるんですね。日常的に会うわけでもないですし。そのドライさが僕は好きです。だから、僕のような「人気はないけどそれなりに能力がある人」は、独立したらいいと思います。
相手に「気おくれ」させない仕事の断り方
長谷川:お二人は、仕事を断ることはありますか?
三井:実は、全然ないんです。声をかけていただくと、難しそうな仕事にも面白いことが潜んでいる気がして…。結局、後で後悔することもあるんですけど(笑)。それから、せっかく声をかけていただいたのに「やりたくない」とか「忙しいから」という理由で断るのはできるだけ避けたいとは思っています。
福里:僕も断らないです。さっきも言ったように、電通時代に仕事が全然来なかった経験をしているので、とにかく引き受けます。しかも、結構忙しいと思っていても、やれば意外とできちゃうんです。
たとえ来た仕事が結構“やばそう”だったとしても、なるべく断らないほうがいいと思いますよ。その仕事で知り合った人がその後いい仕事をくれる可能性もありますし、酷い目に遭ったとしても、そこで同じ立場の相手と仲間意識が生まれて次につながることもある。実際そういうことも多いんですよ。
長谷川:僕も来た仕事はできるだけ断りたくないのですが、たくさん仕事があると、一つひとつを丁寧にできなくなってしまうんですよね。
福里:そうですよね。でも断るのって難しいですよね。「断ると相手がショックを受けてしまうかもしれない…」と思ってしまったりしますよね。
長谷川:そうなんですよ。僕もそれがいちばん怖くて。
福里:でも、そのときに誤解しないで欲しいのは、断られた人は「せっかく頼んだのに、なんだよ」とムッとするわけではないんです。それよりも「そうか、忙しいのか…。次からは遠慮しておこう」と気おくれしてしまうことのほうが多いんですよ。だからもし断るとしたら、相手が気おくれしてしまわないような土壌づくりをしっかりしたほうがいいと思います。
長谷川:僕も、どうしてもお断りしなきゃいけないときは、相手が次に連絡したいと思ってくれるように、メールでコピーの案や企画書を送って「例えばこんなことが一緒にできるかもしれません。機会があったらぜひやりましょう」と伝えたりすることがあります。