神奈川県内でも特に高齢化が進行していることに加え、目立った地場産業もない——そんな大きな悩みを抱える逗子市。この街の、まだまだ知られていない魅力を発信しながら、新たな可能性の側面を発見することを目的に、2010年にスタートしたアートプロジェクトが「メディアーツ逗子」だ。プロジェクトでは、映像、コンピュータ、デジタル、インタラクティブ、情報を活用する「メディアアート」にフォーカスし、毎年さまざまなイベントを開催してきた。
今年の目玉企画は、波に投影するプロジェクションマッピング。「NIGHT WAVE 光の波プロジェクト」と題し、10月10~12日の3日間、逗子海岸中央部で開催された。
NIGHT WAVEは、特殊なLED照明「ホロライト」を使い、浜に寄せては返す白波に青色の光を投影。照明演出家の矢野大輔氏(Tokyo Lighting Design)がプランニングし、「砕ける白波の可視化」をテーマに、刻一刻と変化し続ける波の姿を一筋の光として浮かび上がらせた。総合演出・プロデュースは、メディアーツ逗子の総合プロデューサーで、プロジェクションマッピング協会 代表理事も務める石多未知行氏が手がけた。
プロジェクトは、逗子の地元活性化という目的に加え、それに関わるつくり手にとって可能性に溢れた場にしたいという意図のもと開催されている。いまの時代のクリエイターが、いまの時代のツールを使い、美術館やギャラリーといった限定的な場所だけでなく、商店街やカフェ、雑貨屋など、人の営みがある場所・シチュエーションで表現を行うという試みがなされている。
そうした取り組みの一環で、「NIGHT WAVEを観に行きたくなるコピー」「秋の逗子海岸に行きたくなるコピー」をお題に書かれた計175種類のコピーがプリントされたポスターを、地元の商店街に掲出した。
企画を主導したのは、コピーライターの長谷川哲士氏。昨年のイベント開催時、商店街のお店にちなんだコピーをプリントしたポスターを商店街に掲出する「ことばポスター」という企画を同氏が手がけた縁で実現した。コピーを書いたのは、同氏が講師を務める「コピーライター養成講座・拡散コース」の受講生。「なるべく1人1本以上掲出できるよう、採用するコピーを選定しました。ポスター完成後は、担当スタッフが商店街の店舗を一店一店まわって掲出を依頼。掲出許可をくださったお店に、好きなコピーのポスターを選んでもらいました」(長谷川氏)。
NIGHT WAVEの集客手段として機能させつつ、このポスター自体をひとつの展示物・メディアアートとして成立させることも意図した。長谷川氏は「講座の課題で書いたコピーは、通常は世に出ない。受講生には、自分が書いたコピーが街に掲出されているのを見て、『やっぱり違ったな』とか『これは誰にも気づかれないなぁ』とか、感想を味わってほしかったんです。教室の中ではなく、『街でコピーを書く』体験をしてもらったとも言えるかもしれません」と話した。
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