SmartNewsはコンテンツに愛がある
嶋:話を20年史に戻しますと、ここ数年の間でネットニュース界に大きなインパクトを与えたのがニュースアプリの存在ですよね。
中川:今日来ていただいているSmartNewsの“中の人”である川崎さんも、手ごたえを感じていらっしゃるのでは? 今SmartNewsってどれくらいのユーザーに使われているんですか?
川崎:現時点で、ダウンロード数で言うとだいたい世界1300万ほどになります。
嶋:1300万! それはすごい数ですね。
川崎:数だけ見ればすごいかもしれませんが、僕自身はダウンロード数という数字はあまり信用していないんです。スマホにアプリを入れただけで、実際に使っていない人は一定の数いるはずですからね。でもそれって、今のネットニュースのPV至上主義にも同じことが言える気がするんです。実際にそのメディアやその記事が“本当に”読まれているかどうかって、PVじゃ絶対に計れないからです。それに、媒体によって使っているログ解析ツールもバラバラだから、1PVのカウントの仕方すら統一されていない。
つまり、PVは横並びできない指標なんです。でもそんなPVが、メディアの価値として評価されている。それって、これまでメディアがPVの定義をいい加減にしてきたことが原因なんだと思います。だから、これは単なる僕の意見なんですが、PVやダウンロード数といった数字ではなく、その記事やそのアプリにユーザーがどれくらい滞在したかといった“時間”を指標にすべきだと思っているんです。
嶋:確かに、広告の本質も「どれだけ見られたか」ではなく「どれだけの人の心を動かしたか」ですからね。それはクリック数では計ることができない。
川崎:おそらく、現時点で人の満足度を物理的に計測できる指標が「時間」なんだと思います。
嶋:いいなぁ。そういう話を“ニュースアプリの中の人がしている”という事実が面白いですね。
中川:これまではヤフトピのように、生身の人間がその時々で話題性とか、公共性のあるニュースをチョイスして情報を発信していたのを、すべて機械に任せるようになった。これも新しい文化ですよね。
川崎:SmartNewsも提携メディアが増えて、今では1日に集まる1000万以上の記事を1000にまで絞り込んで配信しているんですが、さすがにその数を厳選することまで人力で行うことは不可能ですから、そこはアルゴリズムに頼らざるを得ない。でも、僕たちもアルゴリズムで何もかもが解決されるとは思っていないんです。
嶋:それはどういう意味なのでしょう?
川崎:スマートニュースは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届けること」をミッションにしています。正直な話、最初はパブリッシャーの方々とのコミュニケーションの仕方が良くありませんでした。でも、コンテンツづくりに携わっていた人間が内部に入ることで、そのマインドが大きく変わりました。
嶋:そんな様子を新聞社サイドの松井さんはきっと、苦々しい思いで見ていらっしゃったわけですよね…(笑)。
中川:松井さんは正直、どう思いました?SmartNewsが出てきたとき。
松井:そうですね……私も当初は、言葉を選ばずに言うと「何でもアリの、ちょっと乱暴なサービスだなぁ」と思っていたんです。でも、最近になって“中の人”が、メディアの一つひとつに真摯に向き合ってくれているというのは伝わっていますし、実感しています。
中川:それは、どんな所から?
松井:例えば、これだけサービスが大きくなった今でもWebモードを採用して、元サイトへのトラフィックを維持しているところです。私たち新聞社も、自社のサイトに広告を出してもらって生計を立てているわけですから、元サイトに人が集まらなければやっていくことができません。その点をスマートニュースさんは理解されていると思います。
川崎:僕自身も、Web2.0やCGMの時代にはてなという会社で働いていて、ニュースというものがタダで作れるわけではないこと、そして、ネット発のメディアが絶望的に儲からないことは経験済みだったんです。だから、ニュースの作り手である新聞社や個人に必ず何かを還元できる仕組みが作りたかった。アルゴリズムを採用していても、一つの物事をいろんなメディアの切り口で読み解けるようにすることで、それがひいては、メディアのブランディングや、メディアの価値の向上にもつながると信じています。
嶋:SmartNewsは、コンテンツを作る人たちの気持ちを分かっている人たちが、アルゴリズムを作っていたんですね。つまり、コンテンツに愛があるわけ。
中川:今回は、“歴史の証言者”の皆さんがネットニュースについて語ってくれたわけですけど、NHKもネット発の話題をニュース化したり、ヤフーもYahoo!個人をニューストピックスに組み込んだりと、これからもニュースの概念は変わっていきそうですね。
嶋:ネットでは1本の記事に必要な労力を問わず、それぞれ1PVは1PVとして換算されてしまう。ネットの世界は民主主義で、そこがまたシビアなんですよね。だからこそ、今後メディアはいかにマネタイズしていくか本気で考えないといけない時代になっていると思いますよ。
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