東北で黙々とアート&デザインを学ぶ、学生たちの「独自性」
さて私が、個人的に自分がお会いした企業の方々と大学(生)と企業とのコラボについて話を聞かれた際には、以下のような質問を最初にさせていただいている。
(1)「社会貢献」の意図の強いコラボを想定されているのか
(2)あくまで大学(生)を活用したプロモーション(広報宣伝)の一環として考えているのか
(3)自社の長期的な経営戦略として共同研究、共同開発、人財交流が念頭にあるのか
もちろん、企業の目的が1つであって、学生の「学び」をサポートし、大学での研究活動を支援していただけることは非常にありがたい。同時に、社会貢献(大学への支援)を超えて、既存あるいは新規ビジネスとして大学生(大学)の持つノウハウ(広義の「アート&デザイン」の力)を結集し、共同で市場に投入していくことは、昨今の商品差別化の難しい時代において、商品の「差別化」「話題性」などの面において有効である。
さらに3つ目の話になる。東北芸術工科大学の学生は、当然「アート&デザイン」に満ちた環境で大学生活を送っている。興味のある方はぜひ一度訪れてみてもらいたい。こうした恵まれた環境で4年間学ぶ生徒たちは、他の都道府県や他の大学で学ぶのとはまた違った「独自性」を持ちうるのではないかと思っている。具体的には、私の主観であるが、華々しい都会風の身のこなしや派手な自己PRを軽々しくしたりしないが、何でも安請負をしたりせずに、一度決めたことは黙々と地道に努力をする学生が多いような気がしている。
大学の提供する(広義の)「アート&デザイン」の素養と同時に、プラスアルファとして、例えば私が担当している企画構想学科では「企画」(マーケティング・商品開発・宣伝PRなど)を少人数の授業で学んで育つ。また他の学科では他の専門分野を「アート&デザイン」にプラスアルファの専門分野として学んで育つ。
アート&デザイン、マーケティングの教養は一体化の流れに
これから日本企業が直面する外部環境を考えてみると、「アート&デザイン」に関する一通りの理解と素養を持ったうえで、さらに、経営、企画、マーケティング、営業、開発などの領域を担っていく人材が欠かせないのは言うまでもない。
企業ブランドの構築、商品販促の企画、良質の人財確保のための企業イメージ向上、付加価値の高い新商品の開発……など、今、企業にとって欠かせない重要な課題の一つひとつにとって「アート&デザイン」をベースとした広い分野における見識が欠かせなくなりつつある。
逆にこうした企業にとって最重要な課題を解決していく上で、自社内に「アート&デザイン」について誰も素養がない状態ですべてを外部に丸投げしてしまった場合、どのようなことになってしまうことかと思うと不安になる。
世界的にはすでに、経営、企画マーケティング、営業、開発などを担っていく優秀な人材の多くが、何らかの形で「クリエイティブ」に関する素養を高めようとする方向にある。そしてこれまで、メディア、宣伝広報、IT、インターネットの各企業で活動してきた私自身にとっても、今、芸術大学で教鞭を執る事自体が、自らが広義の「アート&デザイン」を体得し、プラズアルファの価値を見だしていこうと考えている所以でもある。
日本を代表する大企業も、地元経済の未来を担う地域優良企業も、私が仮に経営者であれば、これからの時代を担う人財として「アート&デザイン」にプラスアルファの能力をもった人財には大きな期待感を感じることだろう。
就職活動開始前の3年生からの「先生!芸術大卒の強みはなんですか?」「芸大卒は就活に有利ですか?」「社会はクリエイターを必要としますか?」という素朴な質問が、ずいぶんとマジメな広義の「アート&デザイン」という仕事の未来について語ってしまった。
6話完結の予定が12話まで続くことになったので、次回はもう少し砕けた話をしたい。