【ポイント2】テレビVSデジタル、メディア予算配分はどう変化する?
巨大な“テレビ・ダラー”のゆくえ
「デジタル時代」と言われるようになって久しいが、日本のみならず米国においても、メディア別の広告投資配分は依然としてテレビの割合が圧倒的に大きい。
榮枝氏が提示した、さまざまな業種・業態の企業のメディア予算構成比を見ても、アマゾン、ネットフリックス、ファイザー、ナイキ、ベライゾン、アメリカン・エキスプレスのうち、インターネット(ディスプレイ+検索)広告費比率がテレビ広告費比率を上回っているのは、アマゾンとアメリカン・エキスプレスだけだった。
インターネット領域の中でも、特にオンライン動画やモバイルへの投資は日本においても関心が高い。しかし、例えばグーグルの年間売上7兆3000億円(2014年通期)のうちYouTubeの売上は3000億円、フェイスブックの年間売上1兆7000億円のうちInstagramの売上は429億円と、米国IT企業のビジネスにおけるインパクトを見ると、現時点では限定的だ。
とは言え、そのポテンシャルに各社が注目し、事業拡大のキーファクターに位置づけていることは、広告動画関連企業の買収案件を見ても明らか。榮枝氏によれば、18カ月の間に、実に12もの取引が行われ、そこで動いた金額は10億ドルにのぼる。
ネットサービス大手のAOLは2013年7月に動画広告プラットフォーム「Adap.tv」を、楽天は同年9月に動画配信サービスの「Viki」を、ケーブルテレビ大手のコムキャストは2014年5月にインターネット動画広告支援の「FreeWheel」を、ソフトウェア開発会社のOperaはモバイル動画広告ネットワークの「AdColony」を、フェイスブックは「LiveRail」をそれぞれ莫大な金額をかけて買収した。
テレビ・ダラーの流出先として、従来型メディア企業を戦々恐々とさせているのが、NetflixやHulu、Amazon(アマゾン プライム・ビデオ、アマゾン・スタジオ)、YouTube、Facebookなどのオンラインメディアだ。
2010年以降、「コード・カッティング」というワードで、ケーブルテレビの契約を取りやめ、インターネットでの動画視聴を選択する消費者の動向が注目を集めてきた米国。この9月に日本にも上陸したNetflixは、テレビの代わりに選択される動画配信サービスの筆頭だ。
Netflixの浸透度は、若年層を中心に非常に高い(調査会社IPSOSのデータ)。調査対象となった13~17歳の25.5%、18~34歳の21.6%、35~49歳の12.1%と、数ある映像メディアの中でネットフリックスを最もよく視聴していることが分かった。
視聴メディアの選択肢にYouTubeが含まれてないなどのバイアスや、エラー、サンプル数不足の可能性などを考慮しても、この調査結果は榮枝氏の肌感覚と大きく乖離していないという。CM枠のないネットフリックスにおける効果的なブランド露出方法としては、プロダクトプレイスメントへの注目が高まっており、その料金体系は5秒間で5万ドル、1シーン全体で20万ドルと言われる。
ホンダやキヤノン、ソニー、アシックスなど日本企業も含む多くのグローバル企業が、すでにネットフリックスの番組に多数登場している。
テレビ、PC、モバイル、タブレット、ラジオ、プリントへの消費者の接触時間と、メディア・デバイス別広告投資額のバランスを見ると、現状、モバイルはその接触時間に対して広告投資額が少なく、広告投資先としての伸びしろがあるとされている(図2、Statistaの調査「Share of time spent with media vs. share of media ad spending(United States, 2013)」)。
これまでテレビに多額の投資していた大手広告主も、モバイルで視聴されるオンライン動画へ投資をシフトし、明確な効果の測定・検証に基づく広告活動に関心を強めており、エージェンシーやメディアも無視できない状況となっている。
これに対してテレビ業界は、従来の視聴率に加えた新たな効果指標の開発を模索している。ニールセンやコムスコア、レントラックが測定してきた視聴人数・回数という「Explicit Data(明確なデータ)」に、コンテンツに対するコミットメントやエンゲージメント「Implicit Data(潜在データ)」を掛け合わせて、視聴の質を測定しようとする動きである。
CivolutionやSamba TV、iSpot.tv、real eyesといったスタートアップ企業を中心に、顔認識・音声認識といった生体認証技術を活用した視聴動向の測定サービスを提供している。
こうした技術は、「いま、目の前の視聴者がどんな反応を示しているか」を読み取るだけでなく、「この視聴者が次にどんな行動を起こすか」を予測することも可能であり、そうしたデータに基づく高精度のレコメンド機能がビジネスのキーファクターとなっているアマゾンの未来のライバルは、例えばこうした企業と言えるかもしれない。