【前回コラム】「若手編集者たちが“編集2.0”を考える ~『編集会議』番外編~【前編】」はこちら
最適化・効率化重視の時代だからこそ求められるコンテンツ
――コンテンツの消費形態が変化するなかで、どのようにコンテンツを届けるのかということも大きな課題です。
佐藤慶一:オンラインサロンには色々な可能性があると思うんです。講談社の『G2』というノンフィクション誌(2015年5月に休刊)で「ノンフィクションを読まない24歳Web編集者がノンフィクション・メディアの未来について考えてみた」という記事を書いたら、賛否両論の反響がありました。ノンフィクションは取材費もかかるし、マネタイズがすごく難しい。ノンフィクションライターはこれまでアウトプットしてからお金が入っていましたが、そのアウトプットする場がどんどんなくなっています。それならば、書いている期間にもお金が入ってくる仕組みをつくれば良いのではないかと思い、その可能性の一つとして、オンラインサロンがあるんじゃないかと書きました。
朽木誠一郎:ノンフィクションであれば、記事にするプロセスだったり、色々な修正が入る前の原稿を見てみたかったりしますよね。同時に、これだけコンテンツ過剰のなかで、読者やユーザーにとっていかに“自分事化”させるかというアプローチも必要になってくると思います。
稲着達也:自分事化させるには、読者・ユーザーに「能動性を持たせられるかどうか」が重要だと思います。人って誰でも普通に生きていればルーティンな日常を送ることになりますが、じゃあ能動的にさせるにはどうすれば良いかというと、そうした日常の予定調和を崩すことができれば良いんです。人間って何かと調和や利便性などを追求しがちですが、例えば、ドン・キホーテの店内ってすごく不調和ですよね。店舗の方はあれを“魔境感”という言い方をしていて、不調和をエンタメに転化しているんです。見つけづらい・探さないといけない状況では、人って能動的にならざるをえないし、そうすると面白いものを探そうとして、買い物が楽しくなる。編集者もそうした不調和をつくり、許容する度量がないといけないのではないかと思います。
佐藤:いまは多くの読者・ユーザーが情報を受動的に得ていますよね。キュレーションやプッシュ通知はその典型です。あらゆるプロセスを省いて、ひたすら最適化・効率化を追求している時代だからこそ、逆説的ですが、泥臭くて手間暇かけてつくられるようなコンテンツの価値が高くなるんじゃないかと思います。そしてその受け皿として、オンラインサロンのようなコミュニティの存在が必要になってくるんだと思います。
稲着:機械的レコメンデーション機能の進化も最適化・効率化の最たる例ですね。あれは便利ですが、そもそも“インサイトを捉える”ってどういうことかを考えてみると…たとえば、ジャケットを買うつもりで服屋に行ったのに、店員さんに勧められたパンツを試着してみたら気に入って、結局ジャケットではなくパンツを購入してしまったというシーンを思い浮かべてみてください。そんな日の帰り道って逆に普段よりもワクワクするじゃないですか。あれは店員さんの論理的・合理的な経験則と、人的な知見・感性が合わさることでできる業です。同じように、いわゆるマーケティングメトリックスによって得られたデータなどはそれ自体にあまり意味はなくて、そこで得られた情報と自分の知見とを統合することが肝なんです。そう遠くない未来に人工知能もその領域に来るのかなぁとは思いますが、現在のレコメンド機能はまだほぼデータ解析の域を出ていない。そうではなくて、データ“だけ”では捉えられないことこそがインサイトの本質であり、それを掘り起こすことも編集者には求められるのではないでしょうか。特に最寄品ではなく、嗜好品をつくる人であるなら尚更です。
朽木:そのためには、前提としてメディアを運用する側にきちんとした理念が必要だと思うんです。オウンドメディアにしても、そこが不明確なものが多いと感じています。顕在的ニーズにあてて記事を量産することは難しくない。その時々のボリュームゾーンのキーワードを抽出して、メディアの方向性に合致した記事をつくれば良いんですから。それでPVは上がりますが、インサイトを捉えられているかといえばそうではない。そうしたやり方では、その場で完結するコミュニケーション以上にはなりえないと思うんです。時流に乗って、とにかくオウンドメディアが立ち上げるという企業も多いですが、単に収益を上げることが目的ならば、オウンドメディアである必要はないんです。メディアとして情報を発信するその先に、何がどうなるのかということも考えたいですね。
佐藤:僕自身も理念がないメディアはあまり読まなくなりました。逆に一つひとつのコンテンツに改善の余地があっても、理念が先行しているメディアがあれば読んでみたいと思います。
朽木:オウンドメディアに対して、Webマーケティングと同じ成果を求めてしまうのであればうまくいかないんですよね。そのあたりも『編集会議』に書かせてもらいました。