2014年、創業150周年を迎えたJ. WALTER THOMPSON COMPANY(JWT)。世界90カ国・200のオフィスで1万人以上の従業員が働く、WPPグループの中核を担う老舗エージェンシーだ。ユニリーバと110年、ネスレと78年、ロレックスと67年、シェルと53年と、グローバルブランドときわめて長期的なパートナーシップを結んでいる点が特徴だ。
社員の行動指針として「4つのC」(Courage:勇気、Curiosity:好奇心、Capability:能力、Collaboration:コラボレーション)を掲げる同社は、エージェンシーとして目指す姿を「We create pioneering solutions that build enduring brands and business.(我々がつくり出すのは、永続的なブランドやビジネスを生み出す先進的なソリューションだ。)」と説明する。
老舗エージェンシーながら、時代に合った新しい概念・手法を積極的に取り入れ、クライアントの課題解決に臨む姿勢は、リサーチから戦略設計、エグゼキューションまでの一貫した流れを構築し、施策の企画・戦略構築にあたって市場調査やリサーチ、データ分析を重視していることからもうかがえる。
WPPとJWTのデータ戦略
マーケティングサービスにおけるリサーチやデータ活用の強化は、JWTが属するWPPグループ全体の方針でもある。WPP CEOのマーティン・ソレルは「Data Horizontality(データの水平性)」という言葉を用いて、膨大な量のデータとその活用ナレッジをグループ間で共有し、より精度の高いデータドリブンマーケティングサービスをグローバルで提供する方針を示してきた。
これに基づき、アドテクノロジー企業やメディア調査企業への出資や買収、TwitterやFacebookといったソーシャルプラットフォームとの提携を通じて膨大な量のデータを押さえるとともに、2014年初めには、傘下のJWTとメディアエージェンシーのグループエム、ダイレクトマーケティングを手がけるワンダーマン、市場調査会社のカンター、PRエージェンシーのコーン&ウルフ、トレーディングデスクのザクシスなどで構成されるユニット「The Data Alliance」を発足させるなど具体的な動きが出てきている。
全世界90カ国のグローバルネットワークを持つJWT単体でも、近年、データ活用強化のための体制構築とナレッジ蓄積を推進している。
今年初めには、世界17カ国に広がるJWT傘下のデジタルエージェンシーを「Mirum」という単一ブランドの下に統合、そして4月にはグローバルに広がるJWTネットワークに横串を刺して、市場調査・データ分析・トレンド予測などを融合したコンサルティングを行う新たな組織連携モデル「JWT Intelligence」をグローバルでローンチした。
JWT Intelligence は次の3つの事業ユニットで構成され、互いに有機的に連携することで、人間への理解を深め、それをクライアントのビジネス目標達成に適合していくことを追求する。
(1)SONAR
市場調査や消費者調査といったリサーチを手がけるユニット。独自のメソッドを用い、世界中の文化的トレンドやブランド、消費者のモチベーションなどを定量・定性両面から明らかにする。また、新たなリサーチ技術の開発・向上にも取り組む。
なお、2006年から毎年JWTが発表している「グローバル・トレンド・レポート」は、同名の独自調査パネル「SONAR」を利用した調査がベースとなっている。
(2)ANALYTICS
マーケティングサイエンスグループと、ビジネスインテリジェンスの2チームで構成される。データとテクノロジーを融合し、新しいマーケティングソリューションを創出することに特化しており、専用の分析ツールも提供している。
(3)The Innovation Group
トレンド予測に基づくコンサルティングサービスを提供する、クリエイティブシンクタンク。クライアントが、いま何が起こっているのか、また次に何が起こるのかを知ったうえで、ブランドの今後の方向性を考えたり、新しい商品・サービスを創出するサポートをする。フューチャリスト(学際的な視点から未来を研究し、ビジョンを提示する専門家)やクリエイティブディレクター、ストラテジスト、リサーチャーなどで構成される「クリエイティブ・イノベーション・ラボ」も設置し、将来の変化に基づくコンセプトメイキングやプロトタイピングを素早く実行する体制も整えている。
JWT Intelligence ANALYTICSを率いるHead of Data and AnalyticsのAmy Avery氏は、「クライアント各社は、データを活用した施策の企画・実行のために多額の投資をしており、広告・キャンペーンの効果の予測・測定など、明確な数値の提示を強く求めるケースが増えています。クリエイティブワークにおいては、データ分析チームと制作チームが密に連携をとって、プランニングの前にコンシューマーインサイトを共有したり、ローンチ後に定量・定性的効果を共有する体制が構築されており、データやリサーチもヒントにしたクリエイションが実践されています」と話す。