JWT 老舗エージェンシーが見せる、データドリブンマーケティングへの本気

ソーシャル時代にマッチしたコンテンツ企画制作

特に、ソーシャルメディアを通じて得られるデータ、とりわけ人々の「感情」を示すデータは、「ソーシャル・エモーション」と呼んで注目し、独自の収集・分析を行っている。「投稿内容のポジティブ/ネガティブや、言葉の裏にあるニュアンスの違いなど、一見パフォーマンスには直接的な関係がなさそうでも、広告・キャンペーンに接触することで人々の中に生じた感情は全てセールスに影響することが分かっています。これらをリアルタイムに計測したり、ある程度予測することで、実施中のキャンペーンを素早く改善・中止することもできます。最近では、投稿された画像データをどう評価するか、研究を進めています」(Avery氏)。

「#IWILLLISTEN」の公式サイト。米国では毎年、4人に1人が精神疾患という診断を受ける。

 
ソーシャルメディア上のデータ分析がうまく機能した事例としては、クリオ賞など国際広告賞で高い評価を受けた「#IWILLLISTEN」が挙げられる。

精神疾患を抱える患者とその家族を支援するNPO団体・National Alliance Mental Illness of New York City(NAMI-NYC Metro)が、団体の存在と取り組みを広く知ってもらうとともに、「I WILL LISTEN(困っていることがあれば、話を聞きますよ)」という意思を表明するだけで、誰もが精神疾患患者の助けになれることを啓発することを目的に実施したキャンペーンだ。

チャリティーでつくられた音楽アルバムは、iTunesやAmazon Primeほか各種音楽配信サービスで無料ダウンロードすることができる。企画に賛同したアーティストたちが、精神疾患のある人々に寄り添う姿勢を表現した楽曲が収録されている。予算は潤沢でなかったため、ミュージックビデオはJWTが内製した。

キャンペーンでは、ハッシュタグ「#IWILLLISTEN」をつけて、TwitterやFacebook、Instagramといったソーシャルメディアで意思表明をしてもらうことに加え、Controller、Sweet Lorraine、Jenna Kyleといったインディーズのアーティストを起用したチャリティー音楽アルバムを制作し、各種音楽配信サービスで無料ダウンロードできるようにしたほか、無料のリリース記念コンサートを開催。また患者と支援者との対話の場として、5000人規模のウォーキングイベントも開催した。

企画にあたっては、アナリティクス部門と連携し、精神疾患やNAMIについてニューヨークの人々はどの程度・どのように認識しており、どのような会話がなされているのかを知るところからスタート。またキャンペーン後に、カウンセリングに参加する患者の家族が30%増、団体への募金が86%増になるなど、得られた成果も共有した。

ソーシャルメディアを活用した事例として、印象的なものをもう一つ。1876年創業のナパ・ヴァレー最古のワイナリー「Beringer Vineyards」のリブランディングを目的としたキャンペーン「#BetterBeckons」は、ソーシャル時代の人々のメディア接触行動や価値観を踏まえて企画された先進的な取り組みだ。

「#BetterBeckons」の裏側をまとめたムービー。アーティストのクリエイティビティを尊重し、JWTはアートディレクションをするのではなく、一緒につくり上げる姿勢を大切にした。
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Beringer VineyardsのInstagramアカウント。
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Murad Osmann氏のInstagramアカウント。

「Beringer Vineyards」はアメリカで高い認知度を誇るワインブランドだが、その伝統と品質の高さとは対照的に、“庶民的”なイメージを持たれ、他ブランドとの差別化に悩んでいた。ラグジュアリーなライフスタイルに合ったプレミアムワインのイメージを浸透させるためのキャンペーンに起用したのは、350万人ものフォロワーを持つ“Instagramスター”のムラッド・オスマン氏。「#followmeto」と題した写真シリーズで世界中から人気を集めている。

同シリーズは、「彼の妻・ナタリーが彼の手を引いて世界各地を旅する」というスタイルで撮影されているもので、「もっといろいろな世界を見てみたい」という好奇心をかき立てるような彼の写真は、Beringer Vineyardsの「より充実したライフスタイル、より素晴らしい世界へといざなってくれる」という、ブランドのポジティブなイメージを伝えることができると考えられた。「#followmeto」の撮影スタイルを踏襲したタイアップシリーズ「BETTER BECKONS(より素晴らしい世界への案内)」は、ナパ・ヴァレーのシンボル的建造物「ラインハウス」や、ゴールデンゲートブリッジ、ファイヤー・アイランド灯台など米国各地の絶景を背景に6カット撮影。よく見ると、ナタリーがワイングラスを持っていたり、地面に置かれたバスケットの中にワインボトルが入っているが、Beringer Vineyardsの商品がはっきり写り込んでいるわけではない。

この写真を、オスマン氏のInstagramアカウントで投稿したところ、1日で42万いいね!がついた。そして、その写真に商品画像を加えた雑誌広告も展開したところ、「この風景はどこ?」とネット上で話題になり、Beringer VineyardsのInstagramフォロワーが増加するなどの効果が得られた。

ソーシャルメディアで人々からエモーショナルな反応が得られる、新しい時代のタレントを起用し、そのコンテンツ力・情報拡散力を最大限に生かす形でコラボレーションを成功させた優良事例と言えるだろう。

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