世界最大のエージェンシーホールディングカンパニー・オムニコムグループの傘下で、カッティングエッジなクリエイティブを多く生み出すことで知られるTBWA\Worldwide。世界99カ国323のオフィスで1万1000人以上の社員が働き、日産、マクドナルド、Airbnb、ゲータレードなど、世界に180のクライアントを抱える巨大エージェンシーだ。
社員一人ひとりがクリエイティビティを最大限に発揮するために、TBWAがグローバルで共有している考え方・視点が「Disruption(ディスラプション:創造的破壊)」である。
元は「崩壊」「混乱」を意味する言葉だが、TBWAでは「Disruption defines a vision that breaks market conventions and creates a new platform for growth.(ディスラプションは、既存マーケットの慣習を打ち破り、新たなマーケットシェアの獲得や企業の成長に向けた新たなプラットフォームをつくるためのビジョンを見つけ出すこと)」と定義づけ、他社とは一線を画すクリエイティブワークの方法論として長年にわたり用いてきたもので、現在では多くのマーケターやクリエイターにも使われるキーワードとなっている。
ディスラプションの理論に基づいて企画制作された広告の代表例としては、TBWA(TBWA\Chiat\Day)が初めて制作したアップルのCM「1984」を挙げる。マッキントッシュの発売を告知する同CMは、1984年1月に開催されたスーパーボウルで1回だけ放映されたもの。1人の女性アスリートが、小説『1984年』を思わせる暗闇の世界を走り抜け、大きな画面に映る独裁者にハンマーを投げつけるという内容で、“独裁者”は当時のコンピュータ業界の覇者・IBMを暗喩している。
「表現が過激すぎる」「商品がまったく出てこない」と当時の取締役会はオンエアに反対し、よもや取り下げとなる可能性もあったが、何とか放映にこぎつけ、米Advertising Age誌は「この10年で最高のコマーシャル」と高く評価した。
さらに、スティーブ・ジョブズがアップルに復帰した1997年にオンエアされた「Think Different.」(こちらもTBWA\Chiat\Dayによるもの)も、「コンピュータはビジネスシーンで使うもの」という常識を打ち破り、クリエイティビティを持つ人のためのツールという新しい解釈を打ち出したディスラプティブなCMだ。
アップルのみならず、TBWAはあらゆるクリエイティブワークを、ディスラプションの理論に基づき企画制作してきた。
例えばペプシが実施した2つの“ドッキリ”企画は、商品のプロモーションではなく、ブランド・アウェアネスの向上を実現することで、ロングセラーブランドのリブランディングを実現しようとした事例である。