社史や理念、事業の意義を見直す機会となる周年をどのように迎えるか。長寿企業から学ぶ連載です。
朝日航洋
1955年、前身である朝日航空創業。翌年には朝日ヘリコプターに社名変更。現在の社名は東洋航空事業と合併した1982年から。ヘリコプターを使った物資輸送や救急医療搬送、航空撮影などの航空事業と、インフラ整備支援などを手がける空間情報事業を柱とする。
1955年に創業した朝日航洋では、物資輸送やドクターヘリ、航空撮影などの「航空事業」、防災支援やインフラ整備を支援する「空間情報事業」をビジネスの柱としています。今回は東京・新木場にある同社のヘリポートを訪ね、昨年7月に企画室が主導してスタートした60周年の取り組みについて、中島紫寿香さん、志村有美さんにお伺いしました。
全社員参加型で周年メディア制作
強い「組織」「人」をつくる好機に
トップが主導でコンセプトを決定
周年を迎える企業では、どのようなプロジェクトや行事に取り組むべきか社内から意見を公募するケースが目立ちます。一見すると非常に有効な仕掛けですが、実は気をつけるべきことがあります。
「ゼロベース、もしくは丸投げで社員に意見を求めるのはNGである」ということです。
やみくもに意見を集約しても、まとめるために予想以上の時間を費やしますし、トップや経営陣の意向とズレてしまうと結局、すべてがリセットされてしまうケースが大半だからです。
今回の朝日航洋のケースでは、周年事業の事務局である企画室がまず企画を立て、社長や役員・幹部と周年事業としての意味合いをしっかり話し合って「目的・概要」を明確に定めた上で社内からのアイデアを募集しました。これは自社らしい周年事業をスムーズに進める適切なプロセスです。
この段階で、主目的を「原点回帰」と、これまで支えてくれた人への「感謝の伝達」と定めました。同時に、「過去の振り返り」よりも100周年に向けた「未来」を重視しよう、という考え方も確認しました。
これらの事前合意は、プロジェクトをスムーズに進める上でも、「自社らしい」周年事業を展開する上でも重要なポイントです。
多拠点をつなぐメディアづくり
朝日航洋は社員約1200人の会社ですが、大きく2つの事業部(航空事業、空間情報事業)と管理部門に分かれています。さらに事業の特性上、日本各地に拠点が散らばっていることもあり、会社全体での一体感を持ちづらい構造的な課題がありました。
また、今回は全社員が集まる社員集会のような催しは行わない方針だったため、周年事業として一体感を醸成するためには拠点間をつなぐメディアをいかに制作するかがポイントとなりました。
実際に、周年ロゴやパンフレット、ポスター、60周年特設サイトなどの制作や、自社サイトのリニューアル、さらに社内CI(コーポレート・アイデンティティ)ルールの見直しにも着手しています。特にポスター制作は非常にユニークな取り組みです。グループ含め社員一人ひとりに「わたしにとっての『朝日航洋』とは?」という問いかけをし、その答えを手書きで集めてポスター化したもので、社員自身の言葉をビジュアル化した「朝日航洋らしさ」を示すものに仕上がっています。
事務局を中心に社長や幹部を巻き込んで全社員参画型で制作したプロセスも含め、社内のつながりや自社らしさを実感できる取り組みになったことでしょう。
自社のアイデンティティを言葉やビジュアルで示し、確認することができるクリエイティブツールは「対外的なブランディング」であると同時に、「社内に対するコミュニケーションメディア」です。ステークホルダーやワークスタイルが多様化し、組織の分化が進む社内を束ねるという意味でも非常に有意義な活動です。