WBSで「やること」と「やらないこと」を明確化
では、「朝、たまごを焼く」という作業にはどのようなことが含まれるのでしょうか。「たまごを買いに行く」「食器を洗う」などが、「朝、たまごを焼いてください」という依頼者の言葉の中に実は含まれているかもしれません。多くの場合、依頼者は「ここまでやってくれると思っていた」と作業範囲を最大で考え、制作者は「ここまでで、良いと思っていた」と作業範囲を最小で考えます。ここまではやる、ここまではやらない、ということを決めるのがスコープマネジメントです。
想像に難くないと思いますが、スコープを曖昧なまま進めるとトラブルが発生する確率が上がります。そのスコープを定義するためにWBS(Work Breakdown Structure)を作って作業を細分化します。どこまで細分化するかはプロジェクトの性質によって変化しますが、細分化することによって誰が何をどこまで行うのかといった責任分担を各作業において明確にしていきます。
品質を計画するのはいつも難しい
プロジェクトに関わる度に、10の知識エリアのうち品質マネジメントは言語化しにくく計画することが難しいエリアだと感じます。依頼者の嗜好や、そのときの状況などをしっかりと把握しないと依頼者の求める品質のものを作ることはできません。
例えば「ふわふわなオムレツが食べたい」と言われても「どんな風にふわふわしたオムレツが良いのか」は人により千差万別。時には依頼者自身もどんなオムレツが良いのか分かっていないこともあります。その場合には、どんなオムレツが良いのかを依頼者と一緒に探していかなければなりません。
そのために、参考になるレシピを見たり、過去に食べたオムレツを振り返ったり、理想のオムレツを絵に描いたりして、頭の中にあるイメージを探索してお互いに共有していくことが大切です。ここでは明文化することのみが目的ではありません。最も大切なのはお互いを深く理解すること。そして理解するために必要なプロセスをきちんと計画することです。
プロジェクトマネジメントは終わらない
さて、依頼者の「朝のたまご料理の理想像」が分かったとします。そして、それは「ハムとチーズ入りのふわふわのオムレツ」でした。その場合、誰がハムを買いに行くのでしょうか。どのようなチーズが良いのでしょうか。予算は足りるのでしょうか。スケジュールは間に合うのでしょうかなど、再び10の知識エリアの項目に沿って計画を調整する必要が出てきます。
実際の仕事でも、当初の計画通りに全てが進むプロジェクトは一つもありません。しかし大切なのはプロジェクト全体を網羅した計画を立て、依頼者と制作者の間のグレーゾーンをなくすことです。計画を立てておくかどうかで問題が発生したときの対処は大きく変わります。そして、プロジェクトマネジメントは計画だけでは終わらずプロジェクトの実行段階から終了まで続きます。PMBOKを活用して依頼者との相互理解を深め続けることが、プロジェクトの成功へとつながります。
重松 佑 氏
ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター
映像業界、Web業界を経てクリエイティブエージェンシーの株式会社ロフトワークに入社。UXデザインプロモーション、ブランディングツール制作、アプリ制作、映像制作など、プロジェクトマネージャーとして幅広く制作全般を手がける。良いビジネスは良いチームから生み出されるという考え方を基に、チームビルディングを大切にしたプロジェクトデザインを行う。ワークショップ設計、コンセプト立案など、ブランディングを得意としている。ミュージックビデオ・ビデオアートの映像作家としてもときどき活動中。
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