テクノロジーの発展とスマートデバイスの普及により、消費者と企業・ブランドが24時間365日つながることが可能となった現代。企業コミュニケーションにおいて必要とされるコンテンツの量は増える一方だ。加えて、さまざまなメディア・チャネルが、消費者の可処分時間を奪い合う時代、消費者の目を引き、心を掴む、効果的なコミュニケーションを実現するためには、クリエイティブの力が不可欠となっている。いかにして質の高い写真やイラスト、動画などのビジュアル素材を効率良く入手するかは多くの企業に共通する課題と言えるだろう。
2003年に創業したShutterstockは、こうした環境下で急成長を遂げてきたストックフォトサービスだ。6000万点を超える著作権フリーの写真、イラスト、ベクター画像、音楽、動画といった素材を、マーケティングや広告デザイン・制作に活用したい広告会社やデザイン・制作会社、メディアといった法人、および一般ユーザー向けに販売している。ユーザーは世界150カ国・150万人(法人+個人)にのぼり、1秒に4点のペースで何らかの素材がダウンロードされている。豊富な素材は、Shutterstock自身が撮影・制作したものではなく、100カ国に約8万人いる寄稿者・アーティストによって提供されており、毎日5万点にのぼる素材が新たに追加されている。
テクノロジーを駆使した、優れたUXが武器
ストックフォトサービスは数あれど、Shutterstockがグローバルで顕著な成長を遂げることができた理由は、素材の豊富さ・クオリティの高さだけでなく、「サービスの使いやすさ」にある。シンプルな定額制(サブスクリプションモデル)をいち早く取り入れたこともさることながら、テクノロジーを駆使することで、優れたUXを実現していることが極めて特徴的と言える。「シンプルでわかりやすい操作性はもちろん、ユーザーが必要としている素材にスピーディーかつ正確にたどり着くことができる検索機能には、特に自信があります」とアジアパシフィック地域 マーケティングディレクターの金島強氏は話す。検索は、日本語を含む世界20言語に対応しており、翻訳の精度も日々改善を重ねている。
実はShutterstockは、全従業員の約3割をエンジニアが占める“テクノロジー企業”である。アジアパシフィック地域 ビジネスデベロップディレクターのSean F.Mooney氏は、「『我々はテクノロジー会社である』という価値観を、社員一人ひとりが共有しています。いま取り扱っているものは、たまたま写真や動画ですが、テクノロジーを駆使することで世の中に提供できる、あらゆるモノ・コトがShutterstockのビジネスになり得ると思います」と話す。テクノロジーを駆使して、世界各地のローカルコンテンツをグローバルに発信し、幅広いターゲット(オーディエンス)とマッチングさせるビジネスモデルは、グーグルやアマゾン、ネットフリックスなどとも共通している。
「優秀な人材」の獲得は、今回の視察研修で訪問した多くのエージェンシーやプロダクションにとって重要ミッションであることが分かったが、テクノロジーをビジネスの武器としているShutterstockにとっては、とりわけ「優秀なエンジニア」の獲得が、企業の生命線と言える。ソフトウェアエンジニアには、営業やマーケター、デザイナーといった社員よりも遥かに高額の給与が支払われているし、充実した職場環境・福利厚生は彼らを獲得・維持するために用意されたものと言っても過言ではない。
テクノロジー企業らしさは、Shutterstockの社内システムや組織体制からも、うかがえる。例えば、社員の日々のタスクや目標は、部門を超えて共通のシステム上で管理し、1週間毎に達成度を評価するアジャイルモデルが採用されている。また、社内ラボ「Shutterstock Labs」では、画像やビデオの新しい検索方法の研究・開発を進めている。すでにサービス化されたものとしては、“キーワード×色”で写真・画像を検索できる「シャッターストック スペクトラム」や、好きな色を5つ選んでカラーパレットをつくり、その色群を含んだ写真・画像を検索できる「シャッターストック パレット」などがある。年1回、ハッカソンも開催されており、エンジニアたちが制限時間24時間以内に新サービスのアイデアを考え、プロトタイプをつくるもので、優勝したアイデアは実際にサービス化される。常に新しいものを発見・創造しようとする企業風土は、こんな取り組みにより育まれている。