企画のストック「違和感ボックス」
山崎:『デトロイト・メタル・シティ』から一転して、次の『告白』と『悪人』は重いですね。
川村:山崎さんの広告もそうだと思うんですが、王道に対する反動を信じてるんです。当時は笑って泣けてハッピーエンドの映画がヒットしていました。でも僕はヒッチコックの『サイコ』やデヴィッド・フィンチャーの『セブン』も好きなので、ぼちぼちこういうジャンルもいいんじゃないかと思って。過去を検証したら 、10年前に『バトル・ロワイアル』がヒットしていました。また、隣を見ると、当時韓国で『殺人の追憶』が、アメリカでは『ダークナイト』がヒットしていた。過去と隣の検証で自信が持てました。
山崎:僕も相米慎二監督の『お引越し』という映画を手伝ったことがあるんですけど、映画の撮影は時間が延びることもしょっちゅうだし、監督とのやりとりもしなければいけない。現場では大変でしょう?
川村:僕は現場にはほとんど行かないプロデューサーなんですよ。いま『悪人』の李相日監督と『怒り』という映画を作っているんですが、沖縄でクランクインするというので行ったんです。広瀬すずがボートから降りて「はじめまして」とおじさんに言うシーンで、監督は朝からテストを70テイクもやったあげく、「今日は回さない」と言う。僕からすると「えー!?」ですよ。1テイク目も70テイク目も変わらないよ、と思う。でも、そこが監督の超能力で、広瀬すずは当然落ち込んでしまって、晩ご飯も食べられなかったのか、次の日はまるでキラキラしていない表情で現れた。それですぐOKでした。
山崎:昔、僕もCM撮影で西田敏行さんを激怒させてしまったことがありますよ。でも目が血走って肩で息をしている、そのテイクが結果的にすごくよかった。そういうことって、ありますよね。
川村:あります。自我みたいなものを別のところにやってしまうというのが、究極の追い込み方だと思いますね。監督にはそれぞれ現場のやり方がありますし、そこは監督の領域なので、プロデューサーは現場に行っても役に立たない。だから行きません(笑)。
山崎:『悪人』からまた『モテキ』に行ったのはなぜです?
川村:モテキの連ドラは内容的なこともありゴールデンタイムではできなくて、深夜枠で視聴率が2~3%で放送していた。でも、昔の倉本聰さんや山田太一さんのテレビドラマってちょっとエロかったですよね? それなら、ああいう性のにおいがするドラマを、映画で思い切りやりたいなと思ったんです。10万人のコアな人が面白がっているものを、100万人が見る映画にしたいと。
山崎:テレビでやれないことを映画でやるのは基本ですよね。
川村:そうなんです。それに、僕は元々「Jポップミュージカル」がやりたくて。僕の頭の中に、変な違和感のある企画が溜まっている「違和感ボックス」があるんです。それだけでは全く成立しないんだけど、何か組み合わせると急に面白くなるようなアイデアが入っているんですよ。そのひとつに、カラオケで皆が振りつけしながら踊って盛り上がるのはミュージカルみたいだ、というのがあって。それだけでも映画になるなと思っていたところに、モテキの深夜ドラマを見て2つがくっついて、これでいける、と。
<後編へつづく>
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川村元気(かわむら・げんき)
映画プロデューサー・小説家。
1979年横浜生まれ。映画プロデューサーとして『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年には、ルイ・ヴィトン・プレゼンツのCGムービー『LOUIS VUITTON -BEYOND-』のクリエーティブディレクターを務める。2012年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、90万部突破の大ベストセラーとなり、映画化も決定した。2013年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。2014年、宮崎駿、糸井重里、坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』を発表。2015年小説第2作『億男』を発表。本年の映画プロデュース作としては、細田守監督最新作の『バケモノの子』、大根仁監督最新作の『バクマン。』などがある。2016年の公開待機作として自身の小説を永井聡監督、佐藤健・宮崎あおい出演で映画化した『世界から猫が消えたなら』、『悪人』の吉田修一原作、李相日監督と再び組んだ『怒り』がある。