映画監督は、原作にない映画のシーンをどのように考え出すのか?(ゲスト:吉田大八さん)【前編】

CMの撮り方しか知らずに映画の現場で苦労したこと

中村:15秒や30秒に魂を込めるCMの世界と、長尺でガンガン台本をつくって撮影していく映画の世界で、感じられた違いはありましたか?

吉田:めちゃめちゃありました。CMではこういうの(机上のペットボトル)を撮るときにも1ミリ右、左とやるじゃないですか。そういう細かいことに、ものすごく時間をかける。15秒の中でセリフも動きも結構決めこむことが多くて。だから最初、僕は“芝居を見ないで細かいところばかり気にする奴”みたいに撮影現場で思われていたかな。

中村:CMの癖で。

吉田:よく「なんでこんな細かいの?」「その細かさの意味がわからない」と言われましたね。そう言われても、こっちも何が問題なのかわからない。長編の現場が初めてなのが、監督の僕とヘアメイク助手の女性だけだったんですよ(笑)。それで、1週目ぐらいでやばいと思って、わからないことを全部各パートに聞いてまわったんです。

権八:大八さんはCMを捨てたわけじゃないと思うんですけど、今日は、CMを捨てて、映画に行こうとしている永井監督から質問を預かってます。

澤本:CM捨てたんだ(笑)。

権八:冗談ですけど(笑)。

吉田:永井さん、まだお会いしたことないです。

権八:永井さんは、大八さんの作品は全部細かくチェックしていますとおっしゃっております。で、こんな質問です。

『腑抜け~』のときに助監督とうまくいかなかったことがあるとお聞きしています。でも、それにもかかわらず、大八さんはその後も『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』と全作品で同じ助監督を使っているという驚愕の噂を聞きました。それはなぜなんですか?

吉田:なるほど。

権八:というのも、永井さんは澤本さんと一緒に映画『ジャッジ!』をつくって、CM業界から映画業界へ行って、本人ははっきりイジメと言うんですけど、映画畑の人達から風当りみたいなものをすごく感じたと。大八さんもそういう話が初期の頃どこかであったのかもしれないけど、コンスタントにこの7年で5本撮ってるじゃないですか。

吉田:そうですね。

権八:しかも同じ助監督でやっている。その理由をぜひ聞いてきてほしいと。

吉田:今日、助監督を呼んでくればよかったね。えーと、まず僕は小学生の頃、転校が多かったので、どこに行っても自分だけ何も知らない、という状況が多かったんですよね。誰かを頼りにしてその環境に馴染むという経験が身についていた部分があるかもしれない。

『腑抜け~』のときはその助監督がセカンドで、『クヒオ大佐』からはチーフをやってもらっています。セカンドはカメラ前で「監督、次は?」と、現場の進行を取り仕切る人です。僕が『腑抜け~』のときにペースがわからなくて、ちょっとでもまごつくとガンガン突っ込まれて。

中村:監督と助監督の間で。

吉田:そう。演出に対しても、「それじゃ(俳優に)伝わらないですよ!」と。僕も言い返すし、狭いロケセットの中で、時間的にも余裕がないから、みんなの目の前でやり合いになる。その時は多少険悪にもなったけど、彼がそれだけ煽るということは、シナリオを読みこんだうえで、最低限これだけは撮り切って映画のクオリティをキープするという使命感からきてるわけですよ。

中村:なるほど。

吉田:撮影が終わって編集して、少し距離を置いて客観的に見たり、完成した後で彼と話をしていく中で、結局、映画に対する責任感の強い人なんだとわかって、信頼するようになりました。

2本目からは、映画を撮るということを、彼も含めたスタッフたちの動きを通じて学んでいった感じです。もちろん、彼にもクセがあるから、そういう意味では相当自分も偏ったかもしれない。でも、やっぱり相性じゃないですかね。

次ページ 「映画の脚本をつくるとき、原作は読み返さない」へ続く

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