架空の「最悪な反省会」を想像しながら製作する
川村:映画を作る時は、いつも公開日のことを想像しながら作ります。映画というのは、公開初日の12時くらいには、その映画がヒットするかどうか大体分かるんです。だからコケた映画の初日の打ち上げは凄惨ですよ。スタッフが集まって、「いやあ、いい映画なんですけどね…」とプチ反省会みたいな話をしながら全員沈むという。
山崎:その反省会を想像するんですか。
川村:その反省会で言い訳しなくて済むように、「今なら直せる!」と製作を頑張るんですよね。僕の場合、そういう恐怖の力が最大のモチベーションになっています。小説の場合はまた違って、映画にできないことをやってやろうと思って書いています。
山崎:テレビではできないことを映画で、映画でできないことを小説で、と。常にそこですね。
川村:わざわざ混んでいるところに行って戦わない。あまのじゃくとは、また違うんです。弱者の戦い方というか。
山崎:『電車男』のときから、そういう戦略なんですよね。「違和感ボックス」の中身は、生活の中でため込んでいくんですか?
川村:そうです。僕らの仕事は超能力でこの世にないものを生み出すことではなくて、みんな違和感を持っているのに特に気に留めずに通過してしまっているものに気づくことだと思うんです。そこを抽出し、表現して、見た人たちに「実は私もそれが気になっていたんだ」と思ってもらうことだと思うんです。
山崎:皆が気づいているけれど、言語化されていないことに気づくと共感が得られる。それは広告にも通じることですね。今日は年下の人からたくさん学ばせてもらいました。ありがとうございました。
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川村元気(かわむら・げんき)
映画プロデューサー・小説家。
1979年横浜生まれ。映画プロデューサーとして『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年には、ルイ・ヴィトン・プレゼンツのCGムービー『LOUIS VUITTON -BEYOND-』のクリエーティブディレクターを務める。2012年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、90万部突破の大ベストセラーとなり、映画化も決定した。2013年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。2014年、宮崎駿、糸井重里、坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』を発表。2015年小説第2作『億男』を発表。本年の映画プロデュース作としては、細田守監督最新作の『バケモノの子』、大根仁監督最新作の『バクマン。』などがある。2016年の公開待機作として自身の小説を永井聡監督、佐藤健・宮崎あおい出演で映画化した『世界から猫が消えたなら』、『悪人』の吉田修一原作、李相日監督と再び組んだ『怒り』がある。