ブランドはどう対応するべきか
企業にとっては皮肉なことかもしれません。ブランド側はデジタルテクノロジーを自らの生産性や効率を上げるために活用していますが、それは顧客側から見れば商品の選択の時間や手間をなるべく減らして、効率よく自分にとってメリットがあるものだけを探せるようになるということです。これは、結果的には競争力がなく、関心をうまく捉えられないブランドの認知や購入の機会がますます減ってしまうということでもあります。
すでにデジタルにおいて記事や写真、動画といったコンテンツを中心としたマーケティングが話題になっているのは、ごく単純に言えば、スマートフォンのような個人の目的を達成するために使われることが顕著なデバイスにおいて、「顧客の時間そのものを獲得すること」を目指しているからです。
だからこそデジタルメディアにおいては、スポンサードコンテンツやバズPR動画のような広告と、メディア制作の純粋な記事やYouTuberがつくる人気動画などの消費者ネイティブのコンテンツの境界があいまいになりやすくなっています。
ステマは忌避すべきことではありますが、ユーザー側にとって大事なのは、「情報に価値があるか、つまりそのコンテンツに時間を使うべきかどうか」です。消費者にとって、情報としての価値がある限りは、広告であろうとなかろうと、どちらでも構わないのです。
「バズる」よりも意味あるブランドの構築を
スマホ向けにクリエイティブを最適化させる努力を「バズるものを生み出している」という短絡的な見方をするのではなく、消費者にとって価値がある仕組みをデジタルでどう実現するかを考えるものとして捉えるべきだと思っています。それは面白い広告を作るというよりも、面白いブランドを作るべきというしごく当たり前の考え方です。その意味で、「Airbnb」や「Uber」は従来の宿泊やタクシーといった産業そのものは何ら変えずに、新しいデジタルを使ったサービスを生み出した面白いブランドです。
そのような新興企業に限らず、店舗とデジタルを融合したサービスを提供する「カメラのキタムラ」や「セブン&アイ」の試みは、明らかに面白いサービスを実現しようとしているブランドです。このような取り組みは「バズる」ものではなく、むしろ地味で多くは話題になりにくい世界です。しかし、だからこそ長期的で価値あるものを作り出さない限り継続することさえできません。
大胆に言ってしまうなら、どんな産業に属していようが、デジタルを活用した面白いブランドサービスを自社で実現できないようなら、その企業は生き残るのは難しいかもしれません。それは、今後どんどん領域があいまいになって競争フレームが変化する世の中において、デジタルを活用したブランド以外は、顧客の時間を獲得することができなくなるのではないかということになります。
マーケターにとっては大きな課題ではありますが、決して無視できない問題です。その答えはありませんし、待っているだけでは代わりに競争相手がやってくるだけです。そのような時代だからこそ、いま先を見据えてじっくりとデジタルに取り組むべきではないでしょうか。