——そんな紆余曲折があって、今の箭内さんがいるんですね。きっと現在も、かつての箭内さんのような悩みを抱える若いクリエイターがたくさんいると思うのですが、そういう人たちにメッセージをいただけますか。
以前、さだまさしさんが「2011年の東日本大震災後、石巻に歌いに行ったとき、みんながさだまさしの歌を知っていてくれて、喜んでくれたのを見て、『ああ、ヒット曲ってこのときのためにあったんだ』って初めて思った。みんなが知らない歌だったら、ああはいかなかった」と話してくれました。
社会でも、会社の中でも、グループの中でも、やっぱり、目立つことは「目印になっている」ということだから、とても大切なことですよね。目立つ努力や、見つけてもらう努力は、自分で絶対しないといけなくて、賞を獲ることも、もちろんそのひとつ。みんなに名前と仕事を知ってもらえますから。
でも、賞だけではない、「目印」になる方法を他にも見つけるといいと思う。「これ、誰にお願いしようかな」と思ったときに、「あの人を呼ぼう!」と思われる存在になるために、みんなの選択肢に入るために、何をしたらいいかを考えるということです。
若い頃って誰もが“潔癖”で、ギラギラしたり、グイグイ前に出たり、「俺が俺が!」と抜け駆けしたりするのが好きじゃない、気持ち悪いと毛嫌いしたりする時代があると思います。僕も、長いことそう思っていました。だけどやっぱり、手を挙げずに待っているだけでは、君のことを誰も見つけてはくれないんです。
「目印」になるための方法として、可愛がられる存在になるというのもありますよね。何でも「YES!」と言う可愛らしさもあるけど、たまに「NO!」と言うからこその可愛らしさもあったりする。企業のコミュニケーションも個人のコミュニケーションも、「YES」だけだと不安になるし、逆に「NO」ばかりだと疎まれる、という点では同じです。
とにかく大事なのは、「工夫すること」と「やめないこと」。僕も、この先どうなるかは正直分からないですけどね…。でも、おかげさまで「営業パトロール」から始まったタワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE.」シリーズは、来年で20周年を迎えます。これだけ長く続く広告キャンペーンというのも、珍しいのではないでしょうか。これも、賞だけではない、僕なりの方法でつくれた「目印」なのかも知れません。
『広告の明日』が見えるキーワード
「目印」
自分が「目印」になること。そのための方法は、賞の受賞だけではない。大事なのは、「工夫すること」と「やめないこと」。