【前回のコラム】「TBWA\HAKUHODO中村彩子に聞いてみた 「広告会社プランナー、入社4年目の今、思うこと」」はこちら
(聞き手・文:博報堂ケトル 原利彦)
——本日はよろしくお願いします!まず、お2人のラジオ原体験から、お話を伺わせてください。
大谷:僕はやっぱり、たけしさんです。「ビートたけしのオールナイトニッポン」。深夜に一人、雑音交じりで聴きながら、他の奴らがテレビで観ている世界とは全く違う世界に浸っている自分に細やかな優越感を感じていました。
——投稿ハガキを出されたりもしたんですか?
大谷:いやー、あの番組のハガキ職人は超レベルが高くって、もう選ばれた人たちの世界ですからね(笑)。僕なんかは、ハガキ送ったりできなかったですねー。
——なるほど。一方、遠山さんのラジオ原体験はいかがでしょう?
遠山:僕は北海道出身なんですけど、小学校4年生くらいのときに「ベストテンほっかいどう」っていう、平日夜にやっている地方の電話リクエスト番組があったんですよ。音楽目当てで、その番組を2年間くらい聴いていたんですけど、ある時、アナウンサーが3月で卒業することになっちゃって。「4月から新しい人来るんでよろしくー!」って4月から新しいアナウンサーが来ちゃったんですよね。そうなると、これまでとは全く声やしゃべり方が違うわけですよ。正直、小6くらいの自分が「おまえ誰だよ!俺らのベストテンほっかいどうを返せよ!」って憤っちゃって(笑)。実は知らない間に、アナウンサーの側に気持ちが入っていて泣きそうなくらい悲しかったっていうのが、僕の原体験です。
——いい話です。そして現在、お2人は自ら看板ともいえるラジオ番組を手掛けているわけですが、ラジオの面白さってズバリ、何でしょうかね?
大谷:ラジオの「全部を伝えられない」不自由さが、いいんですよ。なにせ音しかないメディアですからね。同じ風景を説明しても、聴く人によって思い描く絵が違う訳です。
例えば、作詞家の阿久悠さんは昔、「上野発の夜行列車降りたときから青森駅は雪の中」と綴られたわけですが、僕はその歌を聴いた時に上野駅を見たことなかったんです。青森駅もまったく見たことがない。だけど、僕なりに「上野駅から青森へ向かって電車乗ってる女の人がいて、彼女が青森駅を降りたら雪がしんしんと降っている」絵を思い浮かべている。そして曲を聴く人によって、駅の風景とか、女性の姿形もそれぞれ違うわけですよね。
でも、最終的には、その女性の寂しさや孤独感は、曲を聴く人全員に共有されているんです。俺、そのことが超面白いなあって思うんですよ。ラジオ番組でも同じことが起きているんじゃないか、って感じるときがあって。
——確かに、ラジオは聴く人が、想像力や感情で補いながら成立するメディアですもんね。そして感情と言えば、とーやま校長がパーソナリティを務める「SCHOOL OF LOCK!」は、そのラジオ番組の中でも、極めて“エモい”十代の若者たちの声で埋め尽くされている番組ですよね。遠山さんが感じるラジオの面白さって何でしょう!?
遠山:ラジオって、テレビと違って数年続く番組ってザラですよね。僕がパーソナリティを務めさせていただいている「SCHOOL OF LOCK!」も、今年で10年目なんですが、これってつまり、ラジオはリスナーと一緒に成長していくメディアなんだってことに気づいたんですよね。
僕自身、「SCHOOL OF LOCK!」の二代目校長に選ばれた理由が「全然、ダメだったから」と後から聞きました(笑)。こんなの普通のメディアじゃ即クビですよね。僕自身がリスナーと一緒に成長して、一緒に感動している、そんなことが長い時間をかけて受け入れられるメディアって、そうそうないですよね。
——確かに。つい先日、残念ながら終了した「永六輔 その新世界」(TBSラジオ)なんて、24年半も続いていたわけですもんね。
しかしながら、この「リスナーと長く寄り添うメディア」というラジオの特性が、もしかしたら裏目に出ているのか、現在ラジオリスナーの高齢化と、スポンサー離れが深刻なレベルに来ています。
いま広告会社で働いている僕が、お2人に聞くのもムチャな話ですが、これ、どうやったらラジオ業界って、もっと盛り上がりますかね?
大谷:僕、こないだACCのラジオCM部門審査会で、電通のECD/CMプランナー・澤本嘉光さんに言われたんですよ。「大谷さん、ラジオの未来は、これから明るいことしかないから」って。理由は、radiko(受信地域のラジオ放送を聴ける無料アプリ)があるから。
今のスマホの普及率を考えると、ラジオ聴ける道具が、有史以来、最も潜在的に普及している状況が今なんじゃないかって思うんですよね。ラジオが持つスマホとの相性が良さは、これから相当強い武器になるはず。今は皆、調べるのも、買うのも、遊ぶのも、スマホからだし、この特性をもっと生かしていけばいいと思います。
——なるほど。確かに、テレビはワンセグが内蔵されていない限りスマホで観れないですもんね。一方、ラジオはradikoで放送を聴きつつ、スマホでニュースを読んだり、ゲームをやったり、SNSに投稿したりできます。もしかしたら現在が、ラジオがチューナーで聴かれるスタイルから、ネットで聴かれるスタイルに移行する過渡期なのかもしれません。
大谷: さらに付け加えるならば、テレビだと視聴者は番組に紐づいているイメージなんだけど、ラジオって違うんですよ。リスナーは、番組じゃなくてパーソナリティその人に紐づいている気がするんです。
僕が、昔なんであんなに「ビートたけしのオールナイトニッポン」が好きだったのかな?って今改めて考えてみたら、番組の内容が好きだった訳じゃないんですよね。たけしさん自身が、とにかく大好きで、可愛かったんです。たけしさんに接するために番組にチューニングあわせていたんですよ。そう考えると、広告の獲り方も、これまでのラジオの番組提供とは違った方法が可能だと思うんですよ。
遠山:そう言えば、ラジオってテレビと違ってパーソナリティ自身が、提供してくださっているスポンサーの名前を、毎回読み上げますよね。あれ、なんか響くんですよ。僕も、昔から「オールナイトニッポン」を聞いているうちに、いつのまにかずっと提供についているブルボンさんまで好きになっちゃってましたもん(笑)。
大谷:そうそう。スポンサーの話で言うと、今、アメリカでは、レコメンダーとしてのラジオパーソナリティの価値がすごく高まっているらしいね。ラジオパーソナリティ自身が紹介する商品が、確実に売りにつながっているらしい。
これはつまり、ラジオって、出演しているその人自身の良いところも悪いところも、モロ出しになるメディアだからなんですよ。だからもし、あるスポンサーが「キキマス!」っていう番組にではなく、僕自身に提供してくれる感覚でスポンサードしてくれるんなら、僕もう、その商品を無茶苦茶セールスしますよ!
少し前に「キキマス!」のスポンサーで、福岡のキヨトクさんっていう会社がついてくださっていたことがあるんです。そこが出している「ソースコ」っていう調味料が、やたら美味かったんで、僕もう、番組だけじゃなくて、勝手に自分のブログとかTwitterとかでも「ソースコ」のことを自分の言葉で書きまくったんですよ。それが、結果的に売りにつながって、無茶苦茶キヨトクさんから喜ばれたことがあるんですよね。そんなラジオ広告なんだけど、番組提供だけじゃなくて、パーソナリティ自身に紐づく広告の獲り方もあるんじゃないかな、って思うんです。ラジオ番組って、いい意味でも悪い意味でもパーソナリティとリスナーが直接、結びつくメディアですからね。
——面白いですね。スポンサーが、ラジオ番組単体のリーチではなく、パーソナリティの360度のリーチに金を払う、と。良くも悪くも、ラジオのパーソナリティって広告契約に縛られている人が少ないし、コアなファンを持っている人が多いですからね。デジタルが発達した今だからこその、ラジオの金の稼ぎ方な気がします。
先ほど大谷さんから「ラジオはパーソナリティとリスナーが直接、結びつくメディアなんだ」っていう話が出ましたが、そう考えると、逆にリスナーが番組にお金払ってでも聴きたい番組も確実に存在する気がしますね。
遠山:確かに、昔、ダウンタウンの松本さんと高須さんが夜中にやっていた「放送室」(TOKYO FM)っていう番組がありましたけど、僕、あの番組が大好きで。CD化された時に僕ももちろん買いましたし、他にも大勢の方が買ってますよね。今のスマホでデータが買える時代だからこそ、ラジオ番組を一人一人に売るという発想もあるかもしれません。
大谷さん、もう、こうなったら他にもいろんな芸人集めて、ライブで「ラジオってどうやったら儲かるか」会議やりますか(笑)!
大谷:いいね。もう、その場にクライアントの方々も呼んじゃって、ライブで、面白いアイデアが出たら即売会しちゃおう。ラジオって、それくらい自由で、いろんな試みができる面白いメディアだと思いますよ。
大谷ノブ彦(おおたに・のぶひこ)
お笑いコンビ「ダイノジ」で1994年デビュー。1972年生まれ。安定した演技力からくるコントやオーソドックスな漫才、音楽(ロックンロールミュージック)を使った不思議なコントなど、笑いの引き出しの多さには定評があり、”ロック”をイメージした単独ライブはダイノジならではのパフォーマンス。知的なナルシストキャラ大谷がネタを書く。PVやCM、映画への出演、またメンズクラブ、芸術新潮での連載など多方面で活躍する。