【前回コラム】「映画監督は、原作にない映画のシーンをどのように考え出すのか?(ゲスト:吉田大八さん)【前編】」はこちら
※本記事は10月10日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
吉田監督は『桐島~』の登場人物で言うと誰?
権八:CMと映画でちょっと違うのは、たぶん映画では大八さんにキャスティング権が完全にあるじゃないですか。それが凄い醍醐味というか。
吉田:キャスティングは確かに好きですね。
権八:だっしょ(笑)。CMとちょっと違うのは女優さん、俳優さんの芝居というか表情。『紙の月』なんて宮沢りえちゃんの表情が凄いじゃないですか。はじまってから最後に至るまでの変遷が。ハッとしますよね。
澤本:順撮り(注:台本の順番通りに撮影すること)なんですか?
吉田:順撮りではないです。
澤本:それであんなにちゃんと。
吉田:そうなんですよ。すごく脚本を読む力がある人なんだと思います。泥沼の横領場面を午前中に撮って、昼食をはさんですぐ、真面目な銀行員のシーンをやらなければいけないこともある。モニター見ながら「ほんとに同じ人?」って驚いてました。
権八:CMって15秒でワンカットほとんど2秒ぐらいじゃないですか。こういう表情の変化や、こんな顔するんだみたいなのは見られないし、見る余裕もない。
澤本:もうちょっと巻いてくれますかって、僕らよく現場で言っているよね。
権八:そう。基本的に「もっと巻いてもう1回」みたいなことばかりお願いしていて。その違いは大きくて、『パーマネント野ばら』もちょっと前に見たんですよ。素晴らしいじゃないですか。
吉田:本当? なんでそんな素晴らしいものを今まで見なかったの(笑)?
権八:すみません(笑)。菅野美穂ちゃん、こんな顔をするんだみたいな。いろいろな良いシーンがあるけど、『パーマネント野ばら』の衝撃の結末はビックリしますけど、そこに限らず例えば、彼女が理科室に会いに行くじゃないですか。
吉田:はい。
権八:デートをして、「じゃあね」と離れるときの一回振り返ったりするときの表情が。
吉田:見てますね~。
権八:ゾクゾクするというか、凄いんですよ。もちろんラストにいろいろなことがワーッとわかって、そうするとそこからいろいろなシーンを思い出してまた胸にくる。
吉田:ありがとうございます。DVD発売中です。
権八:5年前ぐらいですか? 『桐島、部活やめるってよ』の前ですからね。
澤本:このラジオを聞いてらっしゃる方は、たぶん『桐島~』を見た人が一番多いだろうね。
中村:『桐島~』は、学校内のヒエラルキー、スクールカーストの中でどういう立ち位置にいるかが浮き彫りになる、みたいなところに面白さがあったんじゃないかと思うんですが、それは監督の原体験でもあるんですか? 俺はここにいたみたいな。
吉田:それは『桐島~』のときに本当によく聞かれて、その度に違う話をしたから何が本当かわからなくなったんですけど。僕は男子校だったんですよね。近くに異性の目がないから、あまり上下って感じることがなかったです。
中村:もしかしたら、ここにいる4人、全員が男子校なんじゃないかという。凄いな、これ。
権八:気持ち悪い(笑)。
吉田: 1つあるのは、僕は音楽好きで、レコードやラジオを聞いたり、バンドで演奏したりということに99%意識が行っていたから。そうするとクラスの中で誰がモテそうとか、大人っぽいとかって、本当にどうでもよかったというか。
権八:どうでもよかったタイプ。
吉田:そうなんです。そこは(『桐島~』で神木隆之介が演じた)前田の、映画つくってれば幸せ、みたいな感じに似てたんでしょうね。
『桐島~』の高校生の“しゃべり”はなぜリアルなのか?
澤本:『桐島~』で言うと、この人を出そうと最初から決まっていたタレントさんって誰がいるんですか? ほぼオーディションですか?
吉田:神木くん、大後さん、橋本さんは知っていたけど、他はその世代の俳優をあまり知らなかったので、3人を含めて、面談やオーディションを延々やりました。
澤本:はい、はい。
吉田:面談はだいたいひとり30分ぐらい、会議室で。東出(昌大)くんなんかはそれで5回ぐらい呼んじゃったのかな。魅力的なんだけど、宏樹って役はセリフも多いし、どうしてもセリフ覚えてしゃべる人に思えないなって。
権八:東出くんは全く未経験でしたよね。
澤本:すごいのは、あそこらへんに猛烈なリアリティがあるじゃない。神木くんも東出くんも。学園ものって役者の人がやっているというか、本当に学園を覗き見ちゃったという風な感じで。あれはどうやってキャスティングしたのかなと。
権八:あぁ~、でもそれは説明できないんでしょ?
吉田:どうして決めつけるの(笑)?
権八:松尾くん(権八注:元おいしい牛乳の制作でその後編集者に転身)のインタビューで読んで(笑)。いや、そういうことがすごく気になるんです。つまり、組み合わせじゃないですか。
吉田:自分みたいなおじさんが「今の高校生っぽくないね」なんて判断できないじゃないですか。だから、彼らがセリフをしゃべりにくそうにしていたら、なんでそれしゃべりにくいのか聞く。すると普通はこうしゃべると言うから、そのほうがやりやすい?と聞いて、もう1回シナリオを見て、意味が通じる場合は変えていいよというときもあるし。着地がずれると思ったら、言いにくくても練習してと。
中村:シーンによって変える。
吉田:『桐島~』がよかったのは、そういうことを観察して考える時間をもらえたんです。脚本の詰めと並行してリハーサルをする時間がたくさんあったから。まだみんなそんなに忙しくなかったし、明日もう1回来れる?で来てくれたんですよ。いろいろ試しつつ、アンサンブルをつくっていけたのが大きいと思う。
澤本:その時間がつくりだせた。
吉田:逆に言うと、それしかないから。絶対的な集客力のあるスターが出ているわけでもないし、原作がミリオンセラーでもない。そういう地道さで勝負するしかないっていう、プロデューサーの覚悟があったということじゃないですか。
澤本:松岡茉優さんはオーディションですか? あの人が素晴らしすぎて。
吉田:オーディションです。彼女は会ってちょっとしゃべってもらった瞬間に、どの役かわからないけど、絶対にこの映画には必要だなって。
一同:へー!
吉田:一種の天才ですよね。何しゃべっても自分の言葉にできるという。たとえば、シナリオに「先生、先生」と書いてあるのに、彼女は本番でいきなり、「先生先生先生先生」ってなるんですよ。「今、何回言った?」と聞いたら、「覚えてない」。
中村:自然に自分の間合いでしゃべっていると。
吉田:すごく早口で、バーッとしゃべるから録音部が心配して。でも、高校生同士が話すときにお互いの話をちゃんと聞き終わってからしゃべるわけではないし。ノリでバーッとしゃべって聞き取れないぐらいのほうがリアルだったりすることがあるから。むしろ彼女のしゃべりを基準にして、みんながスピードを上げたり、あえて乱暴にしゃべったり。彼女によって、相当会話のグルーヴ感が上がったと思う。
澤本:本当に見てびっくりしたんですよ。