Webがフラットな世界をもたらした
鷹觜愛郎氏(博報堂クリエイティブディレクター)や土橋通仁氏(電通中部支社クリエーティブディレクター/アートディレクター)ら、地方から優れた広告を生み出してきたクリエイターによるトークセッションが、10月14日、福島県郡山市で開かれた。テーマは「地域から世界を動かす~広告の力で、できること~」。福島広告協会の創立50周年を記念したもので、同協会と全日本広告連盟が主催した。カンヌライオンズで東アジア初の審査委員長を務めた元電通の鏡明氏(ドリル エグゼクティブ・アドバイザー)が基調講演を務めた。
「Webがフラットな世界をもたらし、地方の企業でも東京の大企業と同じ土俵に立てるようになった。自分たちの市場や顧客のことが第一なのは変わらないが、これまでと違うのは、その先に世界があるということ。そう考えれば夢は大きくふくらむ」ーー鏡明氏は基調講演で強調した。世界と日本とでは言葉や文化の壁があり、笑いや感動のツボは国によって異なる。「そうした壁は必ず越えられる。クリエイティブの力と絶対にやり遂げるという情熱があれば不可能なことはない」と続けた。
続いて博報堂の鷹觜愛郎氏が登壇。地元の岩手県盛岡市で東日本大震災に遭ったことで「地域の広告の新しい価値とは何かについて考えるようになった」と話し、震災後に取り組んだ3つの事例を紹介した。
被災地でミサンガ1万7000セットを売った「シェア」の力
「浜のミサンガ『環(たまき)』」は、震災で被災し無力感におそわれた三陸地域の女性たちに働く場を提供し、生きる力を取り戻してもらうためのプロジェクトの一環。被災地の漁網(ぎょもう)を材料に、女性たちに三陸の復興を願うミサンガを編んでもらい、それを地元テレビ局「岩手めんこいテレビ」のサイトで売り出したのが始まりだ。
情報発信は同局のWebサイトとYouTubeにアップした動画、無償で放映した岩手県内のスポットCMのみ。月に1回サイト上で予約販売を受け付けたところ、2カ月連続でアクセスが集中しサーバーがダウンしたという。一瞬で予約分が完売する盛況ぶりだった。
最も影響を及ぼしたのはミサンガ購入者による“シェア”だ。「シェアの力で、数日前まで無名だった商品を何万セットも売り切るヒット商品にできる。すごいと思う半面、怖さも感じた」(鷹觜氏)。ネット上の情報は、伝わる過程で思わぬ曲解を招くことがある。プロジェクトについて理解を促すために、情報発信で徹底したのは次の点だ。
一つは、「浜のミサンガ」と検索した時に表示されるビジュアルを、笑顔で仕事に取り組む浜の女性たちに、商品ビジュアルはミサンガに限定したこと。学園祭や商店街などに掲出するポスターはPDFで配布し、ビジュアルの一本化を徹底した。もう一つは、売上金額やコストについて、1円単位で購入者に開示したことだ。このことは、プロジェクトに対する信頼を得ることにつながった。
情報はインターネットからマスメディアに拡散し、著名人が身につけてマス媒体に露出するなどして大きなうねりとなり、ネットの単品通販で1億8000万円を売り上げた。