科学と芸術の融合で研究者たちに刺激やヒントを与えたい
計算科学研究機構は、スーパーコンピュータ「京」を運用し、「京」を中核とした計算科学分野と計算機科学分野を連携させた研究、次世代のスーパーコンピュータの開発に取り組む機関である。日本でも最先端といえるこの研究機関で、2011年にスタートしたのが「プロジェクト京」だ。本プロジェクトは科学と芸術の融合をテーマとし、同機構構内に大阪芸術大学の学生たちの作品を1年にわたり展示している。5回目を迎えた本年度は、2月15日より同大学美術学科、デザイン学科、工芸学科、写真学科、キャラクター造形学科の5学科から56点の作品を選出。さまざまな作品が研究棟内の廊下、エレベーターホール、一部会議室などに展示中だ。
プロジェクトが始まった背景には、理化学研究所の野依前理事長が03年に掲げた「野依イニシアティブ」がある。そこに掲げられた5つの基本理念の一つが「文化に貢献する理研」だ。理研として文化に貢献するのみではなく、研究者に文化的な刺激を与えること。さらには理研全体で自然科学とは異なる分野との交流を図るべく、「理研文化の日」が設けられた。神戸・計算科学研究機構は、同施設のモニュメントを制作した米林雄一氏(当時東京藝大教授)の紹介により、大阪芸術大学と連携。「プロジェクト京」がスタートした。
展示作品は、大阪芸術大学と計算科学研究機構が協議の上、決定する。展示作品から毎年、同機構と大阪芸術大学により計15の賞が授与される。特に同機構が選ぶ賞は、200名を超える所員による投票で決定。今年7月、平尾公彦機構長より学生たちに賞状と副賞が授与された。「サイエンスもアートも“新しいものを生み出す”ということは共通している。学生のみなさんの作品からインスピレーションを得た研究者もいるかもしれません。このプロジェクトを通じて、ここに集う多くの方々がサイエンスとアートの出会いを感じ、それぞれに何かをつかんでいただければ」と、平尾機構長はコメントを寄せている。
同機構には、視察や見学など年間1万人近い人が訪れる※。来場者の中には見学中に足を止め、作品を興味深く鑑賞する人。また、なぜ芸術作品が飾られているのかと質問する人、作品を購入した人もいる。
そして、同機構が今年実施した所内アンケートの結果では、「プロジェクト京」を楽しみにしている人は6割を超える。個々の作品への興味関心、受け止め方は人それぞれだが、ここで働く人たちにとって「構内に芸術作品がある」という環境が、いまは自然なものになりつつある。
今後は展示する作品数などへの意見も考慮しつつ、同機構では実施の継続を検討している。「ここを訪れるすべての方が芸術に造詣が深いわけではありません。学生のみなさんには今後こうした点も意識して、より多くの方に見ていただける作品作りを期待したい」と、次回に向けて期待の声を寄せている。
※秋季に実施している一般公開の際は、作品保護のため、学生たちの作品展示は行っていない。
編集協力/大阪芸術大学