【前回のコラム】7限目「先生!メディアや代理店にはどんな人が就職できますか?」「メディアには『せっかち』な人が多いですか?」はこちら
- インターネットが「ない」時代を知らない学生たち
- 先生!テレビは家にあった方がいいですか?
- 松下幸之助と孫正義に会いたい。田中角栄って誰ですか?
- テレビとネット、どっちが頭悪くなりますか?
東北芸術工科大学(芸工大)の企画構想学科で教鞭を執るようになり、日常生活で大学生と触れ合う機会が(当然ですが…)多くなった。大学生とこれほど日ごろから話すようになったのは、自分が大学生の時以来である。
インターネットが「ない」時代を知らない学生たち
他学科の生徒も多く受講する「メディア概論」の講義の際、「家にテレビのある人はどのくらい?」と学生に手を上げてもらった。NHKの朝の連ドラの『まれ』の話から、講義に入ろうとしても、多くの学生の顔が「ポカ〜ん」としていたからだ。
親と同居している学生はほとんど手を挙げた。下宿生は手を挙げない人も多い。むしろ過半数は下宿にテレビを置いていない印象だった。正直、少し驚いた。そもそも『まれ』という番組が放送されていること自体を知らない(少なくとも一度も視たことない)人が大半だったからだ。「インターネットが『ない』時代を知らない世代」とはこういうことなのか…とも思った。
もっとも、こういう「驚き」には気を付けなくてはいけない。この「驚き」は「私の先入観」が原因なのか?(そもそも「朝ドラ」などというものは、今も昔も学生は知らなくて当然なのか)
それとも、単に「世代の違い」なのか?あるいは地域差なのか?
芸術大生ならではの、テレビとの距離感なのか?
所属学科によってかなり違うのか??
細かい配慮なく「最近の若者は・・・」とまるっと括ってレッテルを貼るのは一番いけないことだ。なので「テレビとの距離感」について、限られた情報だけ考えることは一旦封印した。
先生!テレビは家にあった方がいいですか?
ところで、私は大学卒業後、94年に日本テレビ入社し、約8年間に渡り報道局や広報局で、記者や番宣の仕事をしてきた。
さらにさかのぼって私の大学生時代(25年ほど前)の話になるが、当時、築31年の木造の民間アパート(学寮)に住んでいたが、そんな4畳半にも「テレビ」はちゃんとあった。『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』(ともに1991年)の放送を14インチのテレビで視たような記憶がある。当時はあまり共感できないというか、(東京の)「トレンディドラマ」は京都の大学生にはキラキラし過ぎで違和感があった。とはいえ、好きか嫌いかは別に何でもよく視た。
何が言いたいかというと……ネットがない(まだ普及していない)時代、テレビは好むが好まざるが(好きな情報であっても、好きではない情報であっても)、情報を半ば強制的に「私」に届けた。時に「違和感」をも運んできた。だから、「好き嫌い」とは別に「世の中にはそういうことがある」「そういうことがかつてあった」ということがテレビによって知ることはできた。
松下幸之助と孫正義に会いたい。田中角栄って誰ですか?
最近、東京でも多くの現役大学生や若い社会人の方に接する機会があったので、芸工大で学生に聞いたのと、同じようなことを聞いてみた。色々な地域の、少し前後する世代にも話を聞いてみると、それなりに共通点や違いなども見えるようになってくる。そして、「テレビ」(コンテンツや情報)との接し方や距離感の大まかな傾向は、特に芸工大の学生だけに特徴的なわけではないことが、次第にわかってきた。
ある若い社会人A君(男性20代前半)が私にこんなことを言ってくれた。(以下、発言者個人が特定できないように再編集を加えて記す。)
A君:片岡さんが以前、ホリエモン(堀江貴文)さんにインタビューした記事読みました。面白かったです。
私:ダカーポ(マガジンハウス)の記事、読んでくれたんだ。ありがとう。逆に自分だったら、今、どんな人にインタビューしたいと思う?
A君:孫正義さんとかですかね。
私:そうね。なかなかお会いするのは難しいけど、一度話を伺いたいすごい方だね。他には?
A君:松下幸之助さんですね。
私:それは松下幸之助が、今でも生きていればという意味だよね?
A君:え??どういう意味ですか?松下幸之助さん、最近亡くなられたのですか?
私:え??松下幸之助って、松下電器を創業した松下幸之助さんのことだよね?それとも同姓同名のアイドルとかミュージシャンが最近いるの?イケダハヤト氏みたいに??
A君:いえいえ、もちろん松下電器の松下幸之助のつもりでしたが、最近ネットで名言を知ったので今もご存命かと思っていました。
私:・・・A君が生まれた頃、少なくとも20年以上前には、すでにお亡くなりになっている戦後の日本を代表する経営者の方なのだよ。。。
またある日、別の東京の大学生のB君がこんなことを私に聞いてくれた。
B君:リクルートに就職したいんですけど、リクルートっていい会社ですか?
私:いい会社だと思うよ。昔は色々あったけど、良い社風だしOBにも立派な起業家の人が大勢いる。
B君:昔色々あったって・・・何かあったんですか?
私:「リクルート事件」(1988年)って知らないんだ。昔のことだからしょうがないけど、入社希望なら一応、過去のことも調べておいた方がいいよ。ちなみに「ロッキード事件」(1976年)は知ってるよね?
B君:知りません。何ですか?
私:ほら、田中角栄が逮捕された政財界の汚職事件。
B君:田中角栄って誰ですか?
私:田中眞紀子のお父さんだよ。
B君:田中眞紀子ってどこの会社の人ですか?
私:歴史や社会科の教科書はともかく、テレビとかでもそういうのはあまり視ないんだ・・・
B君:3年以上、東京で下宿していてテレビは家にないのです。
私にとっての「一般常識」は必ずしも「一般常識」ではない。それは当然だと理解したうえで、なぜこういう大きなある種の「スレ違い」が起こるのだろうか。